読み進めるにつれて露になる拙い内容のストーリー
ストーリー展開と画力の弱さ
タイトルと可愛らしい扉絵に惹かれて、中身もなにも見ずに買ったこの本。内容はもちろんタイトル通りなのだけど、なかなかキツかった。ストーリー展開がどうしようもなく強引というかなんというか。双子であるこのあまりにも似ていない兄妹が恋していくんだけども、もともと妹(郁)の方は兄ちゃん(頼)としてしか見てなかったのに、なんでいきなり恋しちゃうんですかね?兄ちゃんにいきなり迫られて、このまま拒否すると兄ちゃんがいなくなっちゃう!って思うかな?いくら大切な存在であってもそこは兄妹としてであるハズ。まあリアリティさえあれば別にどんな話でも構わないのだけど、せめてこの心境にいたるところをもう少し深く描いてくれていればここの違和感は防げたように思う。あと郁がなにもできない、どんくさい可愛い設定なのはいいとして(妹キャラとして確立していることだし)、あまりにも度が過ぎる。なのでどうしても、郁の言葉ひとつ態度ひとつに感情移入できない。ギャグとしてしまえばいいのだろうけど、ギャグとしては面白くないし本当ならかなりワザとらしいしで。そういえば郁って女の子の友達いなかったように思う。それをひたすらかわいいかわいいと愛でる頼の気持ちもわからないし。郁のどこが好きなのか、どんなに魅力があるのか、それが「かわいい」っていう頼の一言に尽きるのみで、描写だけではまったくわからないし。そもそも、中学生って設定がいただけない。道徳的にと言うわけでなく、中学生があそこまで冷静に自己分析したり、行動したり、挙句勝手に進路決めてきたり、出来ないだろうとどうしても思ってしまうから。どれほど頭脳明晰かもしれないけどそこに無理を感じてしまって、ストーリーには没頭できなかった。そして、その読み手に無理だろうと感じさせてしまうところが、リアリティがない証拠にもなる。
また絵も、扉絵では可愛らしいと思ったのだけど、だんだん粗が見えてきたり(パースのおかしさとか、コーヒーの飲み方とか)、郁や頼がデフォルメされたりする時の話の子供っぽすぎるとことかが目だってきていたように思う。あと、重要な登場人物(?)にウェルシュコーギーがでてくるのだけど、動物の絵がちょっと下手すぎるんじゃないかな。そりゃリアルに描くわけにもいかないだろうけど、そこはもうちょっと頑張ってほしい(余談だが、「闇のパープルアイ」の豹の描写は筋肉まで感じる力強さを感じて素晴らしかった)。もちろんコーギーだからそこまでは無理にして、せめて「動物のお医者さん」くらいには書き込んで欲しかったところ。
もうひとつ、なんか登場人物の口がいつも開いているのも気になる。
双子で父親が違うということは実際にあるらしい。この本を読んだ時それだけは興味を持って調べたところ、現実的にはありうるけれどかなりの確率になるそう。外国では報告されているみたいだけど、日本でもあるのかな。もちろん一卵性では無理だろうけど。こういうレアケースを持ってくるあたりの目の付け所はいいんだけど…。ちょっと残念な仕上がりだったように思う。
設定を納得させてくれるリアリティの無さ
同じように姉弟、兄妹で恋をしてしまうのは「罪に濡れた二人」とか、「みゆき」が有名どころだと思う。でも、この前者のほうは10年以上あってなかった上に弟って知らなかったっていう設定だし、「みゆき」は元々離れて暮らしていた上に血は繋がってないし、やっぱりずっと一緒に育ってきた兄妹で恋に落ちるっていうのはどうしても難しいと思う。だからどうしてもそれを納得させてくれるリアリティが欲しい。「みゆき」なんてあだち充特有のギャグが散りばめられていているのに、あの切なさを出せるのはすごいと思う。この切なさを倍増させるのが、そのコメディチックなギャグなのかもしれない。あだち充で言えば、「じんべえ」も名作。血のつながらない親子の、本来なら禁断なのかもしれないけど憧れさえ感じる恋愛が豊かに描かれていた。
設定を納得させるにはそれなりのリアリティが必要だと思う。それはマンガでも小説でも映画でも同じじゃないかな。
テーマに対して、絶対的に足りない二人の苦悩と煩悶
「罪に濡れた二人」には、禁断の恋に対しての罪悪感や苦悩がこれでもかと描かれていた。だからこそ感情移入もできるし、つらさも感じ取ることができる。そういった悲壮感がこのマンガには絶対的に足りない。唯一評価したいのは、教会で二人が抱き合おうとする時に、郁が言った「かみさまがみてる」。頼の苦悩がメインに描かれている分、この一言は印象的だった。こういった表現がもっと欲しかったところ。そのため頼はともかく、郁の苦悩がまったく伝わってこない。禁断の恋である以上、双方それぞれに苦悩と煩悶があると思う。“純愛”や“禁断”といったキレイな言葉だけでなく(自分に酔っているような表現はよくある)、もっと汚いリアルな感情の表現が少しでもあれば、もう少し読めたのにとは思う。
マンガにはシリアスであってもコメディであっても、リアリティがなくなってしまえばただの文字のつながりになってしまい、なんの魅力もなくなってしまう。そういう意味でも、このマンガはもう一度読みたいとは思わなかった。
と、全体的に辛口になってしまったけど、こういうマンガは中高生が軽く読むものだとは思う。大人がじっくり読むものではないけど、若い子が何も考えずに読むのならそれなりに面白いのかもしれない。
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