素晴らしい音楽とロケーションに彩られた永遠のスタンダード - サウンド・オブ・ミュージックの感想

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素晴らしい音楽とロケーションに彩られた永遠のスタンダード

4.74.7
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

映画における原体験となる作品

個人的に、そしておそらく私のような人は世の中にたくさんいるのだろうと思われますが、「サウンド・オブ・ミュージック」は、私の映画における原体験のひとつです。このマスターピースについて、一体どこから語ればいいのやら。そういう特別な作品です。

母親から与えられて初めて見たのは、小学校2、3年生の頃。本作は1965年の作品なので、すでに公開から20年経過していたわけですが、それでも子供だった自分のとっては、「外国のお金持ち文化や、キリスト教的価値観」「ミュージカル」「第二次世界大戦とナチスドイツ」そして「大人のとても微妙な心理を含んだラブロマンス」。あまりに全ての要素が初めてづくしだったうえ、非常によく出来た楽しい作品でしたので、当時は何度も見返し、一人一人のキャストに思いを馳せ、すっかり歌もストーリーも、シーン毎のビジュアルも覚えこんでいました。

同じく自分にとっての原体験である「風と共に去りぬ」の222分にはおよびませんが、本作も176分、ほぼ3時間という長尺の作品です。10歳の子供がよくこんな長いものを何十回と見ていたものだと(そしてよく親も放置していたものだと)我ながら呆れますが、子供心にも尽きせぬ要素を含んだ深みのある作品であり、同時にどこまでも単純に面白い魅力溢れる作品だったのだということでしょう。

サウンドトラックは全てがマスターピース

本作は1959年にヒットした同名のブロードウェイのミュージカルを映画用に脚色したミュージカル映画であり、舞台、映画いずれの音楽も、当代きってのヒットメーカー、リチャード・ロジャースとオスカーハマースタイン二世のコンビが担当した素晴らしい音楽映画です。特に、ハマースタインにとっては、本作が遺作となり、胃がんでこの世を去っています。

有名な「ドレミの歌」や「エーデルワイス」ももちろん好きだけれど、本作のサウンドトラックは本当にどれもクオリティーが高いです。冒頭の前奏曲は言わずもがな、甘い若者の恋の歌である「もうすぐ17才」や、子供のヨーデルが可愛らしい「ひとりぼっちの羊飼い」、あの階段を使った7きょうだいのパフォーマンスがチャーミングな「さようなら、ごきげんよう」、大人のロマンチックなラブシーンに胸をどきどきさせ、照れながら見た「何かよいこと」、そして修道長の威厳溢れる感動的な「全ての山に登れ」。全てがマスターピース。

圧倒的なロケーション

この作品の大きな魅力は、もちろん、当時無名だったジュリー・アンドリュースの清らかな魅力と素晴らしい歌声、禁欲的なセクシーさを持つトラップ大佐を演じたハンサムなクリストファー・プラマー、そしてひとりひとり個性の際立った7人の子どもたちといった、役者たちの力というのはすごくあるのですが、私が個人的に最も特別に思っているのは、この作品の圧倒的に素晴らしいロケーションです。正確には、そのロケーションと音楽の調和です。

本作の有名なオープニングは、アルプスにそびえる高い山の間を吹き抜ける風の音から始まります。それから小鳥の鳴き声が聞こえて、俯瞰からぐーっとカメラが、胸がすくような広々とした草原でひとり、踊るように歌うマリアにフォーカスする。あるいは石畳の町並み、教会の鐘、トラップ家のお屋敷やよく手入れされた庭。やがて、灰色のナチスの影を感じる緊迫したシーンを経て、ラストはじりじりと尾根を歩いて国境を越える一家。再び峻厳なアルプスの壮大な景色の中で終わっていきます。こうした夢見るように美しいロケーションに憧れて、旅をしたくなったものでした。

クラシカルなロマンスの描き方が却ってセクシー

子供の頃は、ただただ音楽やダンスの演出を楽しみ、心理的にはトラップ家の子どもたちに寄り添い、友だちのように思って見ていましたが、大人になって見ると、この作品に含まれる、2つのロマンスの要素がすごくいいなと思います。

ひとつは長女リズとナチスの兵隊になる恋人とのライン。リズは独特の甘くてちょっと低い声をしていて、胸がざわざわするような魅力のある女性です。本作の後女優を引退してしまったのは、本当にもったいなかったなあ。

クライマックスで、彼女を取って共に逃げるか、ナチスに忠誠を誓うのか、トラップ大佐がリズの恋人にぎりぎりの選択を迫るシーンは、緊迫感に溢れ、短いシーンながら、簡単に善悪を断じない、葛藤を持って人間を描く演出に、戦争というものについて深く考えさせられました。

そしてもうひとつが、大佐とマリア、そしてシュレーダー男爵夫人のライン。今見ると、シュレーダー男爵夫人って結構魅力的です。単純にお邪魔虫に思えていた子供の自分って、なんと機微の分からぬことだったか。そして、このクラシカルな映画における恋は、とても奥ゆかしく品の良い恋で、今ではまどろっこしいくらいのものですが、なんとも言えない色っぽさを含んでいます。戸惑いながらも惹かれ合っていく、微妙な心のやりとりは、今見てもどきどきします。今ではずいぶん色んなことがあけすけになってしまって、却ってセクシーな恋愛を描けなくなっているところがあるなあ、とこういう作品を見ると改めて感じます。

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