そりゃ人気な訳だ。 by紫花
逆ハーで学ぶ日本史
良い逆ハーと聞けば私は学園ものからファンタジーまで色々見てきた。しかし、日本史で苦戦していた学生時代の名残か、難しく長い名前や、堅苦しい話し言葉のせいでどうしても歴史ものは苦手だった。しかし、逆ハーランキングの上位を占めていた薄桜鬼への興味は止まらず、早速購入に踏み切った。
まず、学校を卒業してしばらく経った私には日本史の知識が全く無かった。しかしアニメのナレーションと共に年号が時折現れ、きちんと何が起こったか説明してくれる。それだけでなく、今自分が見ている所がどこなのかという明確な答えもいつも与えられていたお陰で、数年前に初めて京都を訪れた時には、地図を片手に新撰組の足跡を辿ってみたりする事もできた。
私の思う薄桜鬼の奥深さは、さりげない背景や彼らの生活態度にある。当時の衣食住はどうだったのか、テレビも他のエンターテイメントもない戦ばかりの世界で、人々はどう過ごして来たのか。そんな些細な好奇心をアニメはちゃんとカバーしてくれる。また、教科書にはあまり乗っていない情報…例えば島原と吉原の話も初めて薄桜鬼で知った。大きな遊郭というものが、ただ女と遊ぶ淫な所だけという事ではなく、新撰組の彼らは華やかな宴を催し、部下達を労う為に使っていたというのは何とも驚きだった。
このアニメは物語を純粋に楽しめるだけでなく江戸後期の歴史を学べる素晴らしい作品だ。
緻密に練られた鬼物語
薄桜鬼のアニメの要となる「鬼」という存在は、戦だけでも忙しい彼らの生活に重い影を落とした。欠点が少なく、力に優れている彼らになろうと、人間が真似て作った薬が変若水となり羅刹を生んだ。
物語の重点は主に歴史的な戦いに置かれていた気がするが、必ずどこかに練りこまれた鬼の話はミステリー小説をゆっくりと解き明かしているように少しづつ明らかにされ、千鶴が鬼だと分かった時は、「まさかこのか弱い少女が?」と思わざるを得なかった。
また、いかにも自分は完璧だと言いたげな風間の千鶴に対する執着心から、純潔の女鬼はかなり希少である事が窺い知れる。十鬼の絆シリーズから薄桜鬼に続いて来た鬼の血族は、やはり人間との諍いのせいか、繁栄するどころか滅亡しそうな危険な状態にあるのかもしれない。
変若水とヴァンパイアの関係が深い所から、日本の外では純潔のヴァンパイアが教会や城を飛び回り、薄暗く湿った路地では、死に切れず血をすする堕落した者達で溢れているのかも、なんて考えてしまうのもまた薄桜鬼がくれる想像の世界の一つだ。
かぶりのないキャラクター達
このアニメは個性的なキャラ達をカラフルな宝石のように揃えているだけでなく、ちゃんと容姿もはまっている。
純粋で可憐な千鶴。俺様でありながら中々に紳士な風間。厳しいが人に好かれるツンデレな土方。恐らくヤンデレであろう毒舌で辛口な沖田。寡黙だが気はとても優しい斎藤。元気発剌で無鉄砲な藤堂。兄の様に面倒見がよい原田。近藤、山南、永倉などは言わずとも個性を発している。
皆、一つの信心の為に戦う姿は、鑑賞者の目だけではなく心も惹きつける。しかし、美しい音楽と流れる様な物語とはうらはらに、戦の激しさと命の儚さを改めて思い知らされた。
アニメでは最後土方エンドであったが、充分に他の組長達との話も楽しめるのが薄桜鬼の良いところだ。もう少し各々の日常生活の描写があれば更に良かったかなと思う。
全体的にとても楽しめ、のめり込めた作品だが、一つ残念だったのが絵コンテの担当者がちょくちょく変わっていたのが目に見えていた事だ。光と影のバランスはいつも美しく、色も一定なのだが、キャラの顔があの様に毎回変わってしまうと、もうどれが本物かわからなくなってしまう。
しかし、日本というこの国を更に愛させてくれた薄桜鬼に感謝という事で総合評価は満点とさせて頂く。
歴史初心者からファンタジー好きまで、一度は見てほしい作品だ。
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