まるちゃんの青春時代の爆笑エッセイ
何度か漫画化もされている青春時代のエピソードの詳細
著者さくらももこさんは、ちびまる子ちゃん以外にも、中学生・高校生の頃の思い出話を、読み切り漫画やエッセイで紹介している。それら断片的に描かれてきたエピソードの集大成が「ひとりずもう」であり、小学生時代とは一味違った、少し大人のまるちゃんの姿が描かれている。
特筆すべきは、高校時代に漫画家としてデビューが決定するまでの、青春のすべてを漫画に賭け、今までだらだら呑気に過ごしすぎて母親に怒られてばかりいたさくらさんの変わりようと言える。
さくらさんが「自分にはこの道しかない」と夢に向かって猛進していく様子が詳細に描かれている。漫画家という、誰にでもなれるわけではない、「現実的かどうか」という意味では周囲に反対されがちな夢をひたすら目指し、行動に移すこと。夢は思っているだけでは夢のままだが、叶うと信じて行動に移せば叶うのだと、さくらさんの意思の強さに感銘を受ける。自分が漫画家になった過程を詳細に語っている作品というのはあまりないので、クリエイティブな仕事に興味がある人が読むととても惹かれる内容であると思う。
片思いの相手「青山君」のエピソードの真相は?
さくらさんは、高校時代に他校の男子生徒に一目ぼれして片思いしていたことを、過去にエッセイや漫画に描いている。「ひとりずもう」では、「片思い」と「片思い終了」の章が該当するが、このエピソードは「ちびまる子ちゃん」3巻に収録されている、「みつあみのころ」と、エッセイ「もものかんづめ」の「乙女のバカ心」で紹介されている。一番最新で発表されているのは「ひとりずもう」であるが、実は片思いにピリオドを打ったきっかけが、「みつあみのころ」や「もものかんづめ」とは全く違うのだ。「みつあみのころ」では青山君(おそらく仮称)という名前で出演している片思いの相手であるが、青山君との恋の終わりは、同じ女子高の他のクラスの女子と青山君が付き合っている噂を聞いてしまうという展開であった。当然ショックだし、何も知らない母に心で「お母さん、本当は泣きたい」と言ってるし、実際風呂場で一人で泣いている。本当に辛そうな描写である。「もものかんづめ」でも、やはり同様に彼女がいる噂を聞いて風呂場で泣き、乙女チックな失恋ポエムまで書いたとされており、そのポエムが紹介されている。
しかし、「ひとりずもう」では、考えようによっては自分が相手の男性を振る可能性があるという考えに至ったところ、急速に気持ちが覚めてしまい、同時に漫画のことなどでも忙しくなりどうでもよくなってしまったとされている。風呂場で泣いたという描写はあるが、大して悲しいようなエピソードがある様な関係ではなかったので泣くこともできず、泣いたふりをしたという展開になっている。
この部分においては、さくらさんの漫画やエッセイを読み込んでいる熱心な読者は、若干肩透かしを食らったような気分になったのではないだろうか。「みつあみのころ」や「もものかんづめ」の失恋の様子は、よくありがちな片思いの週末がリリカルに描かれ、非常に共感が持てた人も多かったのではと察する。さくらさんが二度も同じエピソードを、漫画とエッセイという方法で書いており、ポエムまで公表している以上、「どうでもよくなったから恋が終わった」のではなく、「青山君に彼女がいることが分かり、ショックを受けて恋が終了した」という当初のエピソードの方が真実なのではないかと察する。さくらさんがなぜ、「ひとりずもう」に限ってこのエピソードをこんなに淡白な表現にしてしまったのかは定かでないが、気恥ずかしくなってしまったのだろうか。何本かあるエッセイの中でも、この失恋のエピソードは、今までの回想とは全く内容が違うため、非常に真相が気になるところである。
「ひとりずもう」は漫画化もされている
このエッセイは珍しく、コミック化もされており、上下巻が発売されてる。文章だと面白おかしくバカバカしい、いつもながらのさくら節が光っているが、コミックの方は同じ内容なのにもかかわらず非常に抒情的で、漫画家になるまでの過程やたまちゃんとの別れなどは涙なしには見られない。エッセイもコミックも同様であるが、さくらさんの友達の「加藤さん」という大金持ちで生活水準が飛びぬけて高い女友達が登場する。彼女は実在のさくらさんの親友らしく、ちびまる子ちゃんの花輪君のモデルになったと目されている人物である。一部都市伝説で、たまちゃんのお宅が大富豪であり、花輪君のモデルは実はたまちゃんだという噂があるが、この「ひとりずもう」を読むと、花輪君のモデルはビートルズ好きで東京によく遊びに行っていた加藤さんであることは明白である。こうした「ちびまる子ちゃん」とのつながりを感じさせてくれるのも、ファンとしてはうれしい限りだ。さくらさんのエッセイは、子供の頃や青春時代を回顧した作品が特に面白いため、今後も新作に期待したい。
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