どっちもは無理である - 愛さえあればの感想

ある意味破綻した作品

2012年作品、デンマーク映画。2010年のアカデミー外国語映画賞とゴールデングローブ賞を受賞した「未来を生きる君たちへ」がすばらしかったので、さらにさかのぼって見た、2007年の「悲しみが乾くまで」（ハル・ベリー＆ベニチ オ・デル・トロ）もとても良かったので、スサンネ・ビア監督の作品なら、さぞ大人同士の渋く、味わい深い恋愛を描いてくれるのだろうと期待して見ました。 結果、残念を通り越して、本当に同じ監督の作品なのかということが信じられないくらいの落差にびっくりすることになりました。

どのような映画も、多くの人の手をかけて、それなりの時間とお金をかけて大事に作られるものであろうと思うので、簡単にだめと言いたくないという思いを持っていつも映画を見ていますが、今回ばかりは、これは失敗作と言っても差し支えないんじゃなかろうか・・・と思ってしまった自分がいます。

今はいとも簡単に、古今東西の、一生かかっても見きれないくらいの多くの優れた映画を、いつでも安価でどこででも見る事が出来る世の中です。多くの映画が、ごく自然に、何のひっ かかりもなくスムースに、あるまとまりのあるオリジナルな世界観を提示し、そこに生きる人々をありありと感じさせ、ある種の感慨を抱かせてくれます。その深い満足感にあまりにも慣らされているというか。

そのように、スムースでレベルの高い映画を作るということが、やはり相当なことであり、少しも簡単ではないのだという当たり前のことを、こういう、ある意味破綻して客観性を欠いた作品を見ると、改めて思い出すように実感することになります。だから時々は見る必要もあるんだろうな、こういうの・・・と思いました、正直なところ。

要素てんこ盛りだが人間が描けていない

主役のピアース・ブロスナンにオファーした際、監督自身「これはロマンチック・コメディですから」と念押ししたとおりに、まず映画の作りやテイストから、ロマンチック・コメディで「あろう」としているのだなということがうかがえます。

舞台はイタリアの海辺の美しい町、ソレントで、全編を通じて陽気なイタリア音楽が流れており、軽妙な編集で楽しさを出そうとしている。 でも、この監督の持っている本来的な感覚は、人間とは悲しく、時にみじめでやるせない存在であるというものなんだと思います。彼女本来のシリアスな感覚をひとまず脇に置いておいて、あっけらかんと笑わそうとすることに集中する、ある種の潔さのようなものがあれば、質の良し悪しは別として、成立したのかなとは思います。

ですが、この映画では、死への不安や、理不尽な死別や、トランスジェンダーや、性愛と情愛の違いや、孤独といった、本質的にコメディではないテーマを、ひとりひとりのキャラクターの中に設定し、それはもうてんこ盛り状態。主要なキャラクターがそれぞれ複雑な問題を抱えているという様相になっています。

そういった複雑でシリアスな要素を内包しつつも、豊かで味わいのある作品にすることもあるいは可能なのかもしれませんが、それにしてはひとりひとりの人間を納得性を持って描くことができていません。あれもこれも言いたいのだけど、どの要素も中途半端で、思わせぶりなだけで、作品に深みを与えることができていません。

コメディらしい見せ方だけで無理にコメディの型にはめようとしても、違和感があり、ついていけない、笑えない、という感情が随所で起こってしまいました。

ストーリーラインがまずあって、その都合に合うように人物が動かされているという感覚があるので、キャラクターたちの言動に全く共感できないし、不可解でさえあるということが多すぎました。映画とは、登場人物たちが、作品の世界を「生きている」という感覚が抱けないと、非常に稚拙な印象に堕してしまうのだなと思いました。

中年女性の白馬の王子様願望が気恥ずかしい

また、女性特有の白馬の王子様願望が実にストレートに出ていて、最後までそれで行ってしまうのか、本当にこのベタさで終わっていくのか、スサンネ・ビアともあろう人が。とびっくりしたのですが、まあそういう映画も求められているんだろうとは思います。

でも、それならなぜ、もっとロマンチックに美しく描けなかったのかなあ。主人公の女性の容姿や、取り巻く状況を美しく描かないことでリアリティーというか、ターゲットとする中年女性の共感を呼びたかったのかなと思うのですが、裸でイタリアの海で泳ぐヒロインが、ぎょっとするほど生々しく、全然きれいに撮られていなかったし、主人公が自宅に戻った時に、太った冴えない彼女のだんなが、カウチで浮気相手とセックスしていたのに鉢合わせた時の様子も、生々しく汚らしい撮り方で、なんなんだろうと思いました。全く笑えもしないし。

人間年取ったら色々あるけれど、ありのままの私を美しいと思い、愛してほしいという願望を込めたいのは分かるけれど、さしたる根拠もなくピアース・ブロスナンに突然求愛されるって、ほとほと無理があるよ、と鼻白んでしまいました。