なぜ描いた
打ち切りにまつわる種村有菜という才能の陰
種村有菜が少女漫画誌『りぼん』にてデビューしたのは、今から二十年近く前になる。
それまで、少女漫画といえば学園を舞台にした恋愛モノがメインで、さっぱりとした絵柄の作家が多く存在した。当時は『マーマレード・ボーイ』の吉住わたるや『ご近所物語』の矢沢あいが誌面のメインを張っており、長寿作品として『赤ずきんチャチャ』があった、ということを記憶している。
そこに彗星のように現れたのが種村有菜であった。
種村有菜は、華のあるキャラクターデザインとカラー絵の圧倒的な存在感で、『イ・オ・ン』や『神風怪盗ジャンヌ』などのヒット作を連続させて、すぐに『りぼん』を代表する人気作家になった。
『時空異邦人KYOKO(以降、KYOKO)』は『神風怪盗ジャンヌ』に次ぐ連載作品として発表された。『りぼん』では珍しく、アニメ化までこぎつけた種村有菜の次回作ということで、ファンたちは『KYOKO』を楽しみにしていたように思う。
だが、そのストーリーの結末は打ち切りというに等しく、読者の評価と満足を得られるものではなかった。
当初、響古の目的は目覚めない妹を起こすために十二人の仲間を集めると明かされていながら、きちんとストーリー上で集まったのは片手で足りるほどの人数だけだ。あとは内容が適当に割愛されて、「こういう人たちが集まりました」というように結果だけが明かされる、というだけ。
この慌てたように物語を閉じた理由について、種村有菜本人がコミックスの柱で明かしたところによると、「少し休みが欲しい」「今年の占いでやめるべきと出た」という、到底大人の説明とは思えないようなものだった。
だったら最初からやらなければいい、というのが読者の正直な意見だ。編集部に書くように言われたなど裏の事情があるのかもしれないが、それにしてもずさん、お粗末な顛末だ。
種村有菜のデビューは十代と若く、ろくに社会を知らないが故にこのような釈明になったのかもしれないが、それならそれで編集部がきちんとフォローすべきだっただろう。色んな事情があるにせよ、一番は読者である少女たちを困惑させるようなことがあってはならないと思う(ちなみに種村有菜は、たびたびコミケなどでも騒動を起こし、“お騒がせ漫画家”として有名になってきている)。
種村有菜らしい“いかにも”たち
さて、しょっぱなから散々文句を言ってしまったが、次は漫画本編にまつわる考察、批評など諸々を語りたいと思う。
『ジャンヌ』の連載を経ているだけあって、絵の美しさについては文句ナシだ。特にカラーやデザインセンスにおいて、少女たちの心を引き付けるのは少女漫画界で種村有菜が随一であるように思う。
そういえば種村有菜がデビューしてから、『りぼん』最大の特徴である付録も“有菜推し”になってきた。そりゃ、女の子たちだって可愛い付録が多いに越したことはないに違いない。
ストーリー部分についてはいかにも少女漫画らしいご都合主義。自分が王位につきたくないから妹に肩代わりさせる……と一見自分勝手な理由のようで、実は目覚めた妹と仲良くなりたいという本心があるのもいかにも少女漫画。護衛二人がイケメンがいるのも“いかにも”。しかしなぜ、種村漫画のヒロインからは桑島法子ボイスが聞こえてくるんだろうか?
しかし、終局近くに“種村有菜らしいいかにも”が待ち構えていた。
ヒロインであるキョーコが実はお姫さまじゃなかっただけでなく、対極の存在、魔族……であるように見えて、実は神さまの娘だったのである!
……と、一般的な読者は「な、なんだってー!」と驚いてしまう展開なのであるが、種村有菜の漫画に慣れてしまったファンにとっては「あ、うん、そうだろうね」となってしまうのだ。
『神風怪盗ジャンヌ』においても、ジャンヌのサポートをしていたフィンがそうだったように、味方側の誰かしらがダークサイドにいる(あるいは堕ちる)のである。この作者には破滅願望でもあるのか?
作風といわれればそうなのだろうが、種村有菜っぽさは『KYOKO』でも健在なのでありました。いくら読者が少女とはいえ、流石にそろそろ飽きられるぞ。
そういえば、日本国内(というか、筆者の中)では良い評価を聞かないが、ドイツではかなり人気だという話である。もともとドイツでは日本の少女漫画が人気だというが、それにしても不思議な話だ。
きちんと次回作への踏み台に
納得のいかないエンディングを迎えた『KYOKO』。
だが、その反省を活かしてくれたのか、次の連載作『紳士同盟†』は長期連載となっている。
そのストーリーはまたもや“種村有菜らしいいかにも尽くし”であるが、『KYOKO』を打ち切りにした反動か、今回は途中で打ち切らせることなく、ちゃんと完結まで迎えているのは評価したい。
種村有菜も、もうベテランの部類に入るだろう。今後、『KYOKO』のような中途半端に完結する作品を生み出すことのないよう、切に願いたい。
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