内容はわりとこだわっている感がある話だった
艶やかな扉絵がさすがです
作者の種村有菜先生といえば、絵のうまさで定評があります。今回のお話でも、それはいかんなく発揮されていました。ただ、ちょっと女の子の目がでかすぎるんですよね~…小学生くらいの頃は、これで全然うまいんだと思って疑いませんでしたけど、歳を重ねると見えるものが変わってきます。でかくするなら「紳士同盟クロス」の潮くらいかわいくしてほしいなって思うし、ヒロインが元気で天然さんでうるさい傾向にあるのがありきたり感もありますね。種村先生の作品におけるヒロインには、共通してそういう特徴がある気がします。元気にふるまいながら、心の中では闇も持っているっていう子が本当に多い…多いと言いますか、全員の基本がそれでできてます。そこにどんな男の子を合わせるか、どんな時代背景を付け加えるかで変化をつけているわけです。
そんな小言も吹っ飛ぶくらい、やっぱり扉絵が最高なんですよ。人のうまさというより、背景の細かさ、響古の気高さ発動したときの美しさとか、素敵です。一番のお気に入りは、華蓮でしょうね。(というか、ほかのストレンジャーたちのエピソードががっつり削られてるので、語りようがないというのが事実です…。)華蓮は華族の族長ということで、人間と華の間に生まれた人…って何なんですかその設定。絶対おかしい。なのに、常にその周りに花びらが舞っているその姿、清潔感・透明感があってかわいらしかった…!泣き顔に心打たれちゃいます。鳥羽が一目惚れしたって仕方ありません。
ヒーローは逆滝でしょうね
どう見ても氷月が竜族の村を滅ぼしたでしょう。これは間違いなかったです。そして響古の寝込みを襲ってキスをしているのも氷月でしょうね。逆滝にそれができているわけがない…キャラ的に。
逆滝のように、黒髪・短髪・ツンデレがヒーローになる確率がものすごく高いので、今回もその通りでした。ただ、いつもとちょっと違ったのは、それほどがっついた感じがないというところでしょうか。早く話を進めなきゃならなかっただろうし、そこまで細かく伝えきれなかったのかもしれませんね。
王女である響古が逆滝を求めた時点で、ずっと忠実に僕として仕えてきた逆滝が断るとは思えませんでした。気持ちがあろうがなかろうが、忠義を尽くしたいと思っている相手からそんな精一杯の気持ちで想いを伝えてもらえたら、最高に嬉しいと思うんですよね。響古が実は憂の身体を借りているだけだったと分かった後も、誰よりも先に思い出してくれた…
しかし、地球王の死んだ妻を入れ物にしてまた人として生きるようにする必要があったんですかね…ここだけはどうも納得いかないというか、そこはクロノスが神様らしく何かやってくれたほうが嬉しかった。地球王が愛した妻の体を借りるとか…地球王の気持ちはどうするんだろうか。
それはまぁさておき、逆滝の魅力は、真面目で、正直で、優しく、何よりも響古を大切に想って行動できるということでしょう。正義感が強いところは一長一短あるけれど、やっぱりその勢いが迷った時に道を照らしてくれるというか…氷月みたいにむっつりじゃないし、ストレートのほうが人からは理解されやすいですよね。
登場人物たちが3巻になって一気に濃くなる
3巻を開いてあらびっくり。もう11人のタイムストレンジャーが見つかってるじゃありませんか。そして、最後のひとりはいったい…いや、絶対氷月だからね?序盤からずっと怪しいからね?勿体ぶりすぎだからね?
それにしても、この漫画の中では人間にいろいろな要素を混ぜ込んでいるので驚きます。鳥とか竜とかの生き物ならまだしも、華や樹木、風、雷など…いろいろなものと組み合わせてます。確かに、風になれたら…とか、華の妖精さんになれたら…とか、子どものころに描いたであろうファンタジーな世界ですよね。そのあたり、種村先生がずっとあっためてきて、いざ出そう!ってことで出したんだなーって思います。12人の背景もかなり細かく設定されているのに、本編でほとんど語られることなく全員が登場してしまったのは残念でしたが…そのキャラクターの要素が他の人気作にも受け継がれていたりするようです。というか、1人1人のキャラクター愛がすごいというか、このキャラクターはこうして生まれてきてくれた…!と熱心に読者に教えてくれるんですよね。
種村先生の作品だと、複雑な心情を詩のように綴ってみたり、ヒロインの思考が驚くほどぶっ飛んでいるときが多いです。ぱっと見、どういう意味なのかわからないことも。ファンには通じるらしいのですが、なかなか理解できません。また、ヒロインの心や表情がコロコロ動きまくるのでついていけないときも確かにあります。それに加えてこの大勢の登場人物…本来なら、もう少し丁寧に、10巻以上使って一人一人のエピソードが描かれるような大作だったでしょうね。
響古の立ち位置はかなり練られていた
響古の存在が、かなり練られた構成になっていました。これはおもしろいです。はじめ、憂と双子設定で、憂と幸せな双子になる未来も想像できたし、憂が目覚めることで響古が一時的にでも消えてしまうような悲しい未来もありそうでした。ところが、実は地球王の娘は憂ただ一人であり、響古は思念体として憂の入れ物にしているに過ぎなかったという…形の存在していた憂はニセモノだったわけですね。この形は予想できませんでしたよ。
この事実を知っていたのは地球王ただ一人。クロノスに頼まれて、クロノスの娘が16歳になるまで人間の身体を借りて成長できるように貸していただけだった…ん?ここで我に返るのですが、よく貸せたね。16年もの間。自分の最愛の妻・季結の忘れ形見だよ?そこはだいぶびっくりだわ。しかも、実の娘の姿かたちをしていても、ちゃんと響古という人格を認めて、愛情を抱いていく。複雑極まりない。ちょこらというアンドロイドも…とても複雑ですよね。地球王を愛しているし…本当に愛していた妻を失って得た憂のこと、多少なりとも恨んだんだろうなと思います。でもね…その妻を新たな響古の入れ物にするのは、ちょっと…そうまでしてでも、やっぱり生きていてほしかったのかなとは思うんですが…絶対身も心も大好きだよね、地球王。そんなんで逆滝にあげていいんですか?ハッピーエンドと言えるのか…悩むところです。地球王が一番のダークホースだったわけですよ。30世紀の未来、何が起きているやらわかりません。
打ち切りとなって残念
最後まで駆け足で過ぎ去っていき、種村先生はまた新たな作品を書き始めました。彼らのエピソードはもっと語られてもよかったのですが、大人の事情というやつは悲しいものですね…ドイツでは特に彼女の作品の人気が高いらしいので、海外でも惜しまれたことでしょう。ずっとあっためてきた作品だっただろうに。
個人的には、逆滝の心をもっとしっかりと氷月が動かしてくれると嬉しかったですね。どんな思いで竜族の村を滅ぼして、逆滝と共に歩む道を決めて、姫様に恋をして…もっと語ってもらいたかったです。大人だからこその悩み、がっつけない葛藤を見たかった。そうであるからこそ、逆滝の純粋なところが活きてくる気がします。あとは、普段すごいバカっぽいのに、やるときはやる、みたいなヒロインじゃなく、儚げな人物もヒロインとして描いてほしいですね。そのような人物のほうが、すっごく絵が美しいので、ときめきます。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)