約230年前にロシアに漂流その後日本へ帰国した本当にあった話。大黒屋光太夫を読んで - 大黒屋光太夫の感想

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大黒屋光太夫

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約230年前にロシアに漂流その後日本へ帰国した本当にあった話。大黒屋光太夫を読んで

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
2.0

目次

天明2年(1782)、伊勢白子浦を出帆した回米船、神昌丸は暴風雨に遭遇、舵を失い漂流。

沖船長の光太夫ら17人はアリューシャンの小島に漂着した。この時光太夫は若干32歳である。 話は巻き戻るけれど、この航海は光太夫にとって沖船長としての養父の三五郎から任された初の処女航海なのである。出港前の港の様子や、船乗りを相手に春を売ろうとして近寄ってくる、小さい船にいる女たちなどの事細やかな描写は本当に吉村昭の小説の骨頂と言えるだろう。吉村の作品に共通するのはドキュメントを追及してとにかく調査して、徹底的に真実を伝えようとする熱意が作品から伝わる点だ。称賛に値する。まるで私がその場の様子を俯瞰からずっと覗いて見ているような、そんな気分にさせてくれる。

私が、昔の日本人はりっぱだなとつくづく思ったことがあって、こんなあきらめてしまいとうな状況なのに毎日光太夫はこれまでの経過を日誌に書き綴ってました。天候のせいなのに、舵を流失し、帆柱を切らなければいけなかった理由を書き、まことに申し訳ないと誤っています。義務と責任感をもって行動するところにとても惹かれます。

飢えと寒さに次々と倒れる。ロシア政府に助けられ呼び寄せされたシベリアのイルクーツクでは、生存者はわずかに5人となる。

今から約230年前の時代、日本人以外の人に会ったことも、見たことさえなかったであろう人達がロシアを見聞するところが、自分があたかも体験しているような気になってきて実に面白くてどんどん引き込まれていきました。初めて遭難した一行がロシア人を見た時、真っ赤な顔をして背が大きく、髪とひげが例外なくぼさぼさで裸足であったとあります。

日本人から見たら鬼ヶ島の鬼かと思ったんじゃないかな?と私なら絶対に怖くて逃げているかもしれません。

極寒の地で飢えと寒さに次々と倒れる一行。助かってほしいと心から願いましたが、最終的に残った数はわずかでした。慣れない土地、気候、食事、衣服も暖も無く過ごす日本人を思うと涙がとまりませんでした。現代はどこへ移動したとしてもそれなりの前知識で準備をしていくものですが、当時はなすすべもありません。そして、言葉というのは必要があれば身につくものだなと言うこともこの本を通じて感じました。光太夫らは必要はことは説明をできるまでになっていました。ネタバレになってしまいますが、ロシアには先に漂流してきて帰れないまま定住していた者もいたりして、昔の人は本当に大変だったんだなとあらためて思いました。

光太夫は、べテルブルグへの苦難の旅路をへて、女帝エカテリナに謁見。日本との通商を求めるロシアの政策転換で、帰国の道も開かれた。

 エカテリナと言えば映画にもなったくらい有名なロシアの女帝に日本人で会ったことがある人がいたという歴史的事実に本当に驚いた。こんな話が意外と知られていないのは本当にもったいないなあと思う。

この本文中にはエカテリナと謁見したときの様子や、女王の寛容さが見て取れるところもあるのでテカテリナが好き、興味があるって人にもぜひおすすめの本である。

当時は日本の場合は皇室の人と謁見するなどと言うのは夢の、そのまた上の夢の話しであるので光太夫がエカテリナに謁見したときの様子を聞いた周りの者たちは本当に驚いた様子だった。顔を見たのかというのは、日本の場合では直接顔を見て話すなどという行為は無礼であり、必ず簾のようなものがかかった奥にいるのだと書かれている。

生存者達がとうとう日本へ帰れることになったのは本当に嬉しい気持ちでいっぱいになった。

それでも長年ロシアにいた光太夫一行はロシアにも相当馴染み、ロシアで夫婦になったものもいた。日本人の男性は残念ながら海外ではモテないという私の偏見かもしれないけど、こんな昔なのに美しいロシアの女性の心をつかんでいた日本人男性がいたのかと思うと誇らしい気分になる。今のように、とりあえず里帰りしてまた来ますと言えないので、日本へ帰るとなれば別れが待っている、結局ロシア女性と別れて日本へ帰国を選ぶところはせつない。故郷の梅の花がもう一度見てみたいというくだりはとても泣ける。

帰れるからと言っても、飛行機で数時間とかではない、またまた死を覚悟するかのような辛く長い航海が待っていた。食料もつき、水もつき、餓死寸前でなんとかいったんヤフーツクという島に立ち寄り食料などを補給した。オホーツクやヤフーツクや、似たような名前が多くて混乱する。とにかく、ただでは故郷に帰れない光太夫達で、この後も目を疑うような過酷な旅が待ち受ける。ここまでくるとよくぞ帰ってこれた、奇跡でしょ?と言いたくなる。

本文冒頭の嵐にあって舵を失い漂流した光太夫らは神に拝み、謙虚に信じて繰り返し祈ってきた。本当に伊勢大神宮様のご加護があったのだろうと思わされる。

 

ロシア人たちが日本の食事には満足していたが、牛乳を飲みたい、用意してくれというのに、牛は農業用に使う牛しかおらず、その乳を飲むということ食習慣が無かったことにびっくりした。今では当たり前にあるものがほんの230年前には無かったのか、カフェオレ大好きなんだけどな。そして、一緒に来日したロシア人たちの描写も今人気のクールジャパンさながらでとても面白い。一見の価値はある。

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