甘々な恋愛ストーリーに惹かれた! - レインツリーの国の感想

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レインツリーの国

3.633.63
文章力
4.38
ストーリー
3.63
キャラクター
3.88
設定
3.75
演出
4.00
感想数
4
読んだ人
11

甘々な恋愛ストーリーに惹かれた!

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
5.0

目次

メールでのやりとりが素敵

映画化になった有川浩さんの小説。まだ映画を観ていない状態で、やっぱり原作を先に読まなくては!とあらすじなどの予備知識なしで読んだけれど、相変わらずの有川さんならではの甘々な恋愛小説!

そして、伸行とひとみの出会いがひとみのサイト経由というのが面白い。サイトで知り合った男女の恋物語自体は珍しくはないが、きっかけが昔読んでいたライトノベル『フェアリーゲーム』のレビューというのが読書好きとしては憧れる。読書好きなら、共通の本を通して異性と出会ってみたい!と思うことがあるのかなぁ、と。だから、ストーリーの展開にのめり込んで読むスピードが自然と早くなった。2人のメールのやり取りを文章にしている割合が多く、読みやすかったからもあるけれど。

実際に2人が会うようになってからも、メールでのやり取りの場面が多く、それがこのストーリーならではの構成で楽しい。チャット形式の連絡手段が主流になっている現代を考えれば、こんなにも長いメールを打つことなんてほとんどない。最も、この作品が出版されたのが2006年なので、当時はまだまだメールが主流だったなぁと懐かしくなる。

メールは連絡ツールのひとつとしか認識していなかったけれど、コミュニケーションツールのひとつでもあるのだな、と気づかされた。これは、ひとみが聴覚に障害を持っているのとは別に、健常者同士でもたまにはメールで長々と言いたいことを綴ってみるのも良いのではないかと思わせてくれた。すぐにレスポンスできるチャット形式とは違う楽しみ方ができるのだろうなぁ。

すれ違いすぎてハラハラ、だけどそんなものか

メールがコミュニケーションツールのひとつと気づき、良いなぁとは思ったけれど、やっぱり文字だけのやり取りでは誤解が生じてしまうというデメリットがある。

対面して会話していれば、相手の声色や表情で微妙なニュアンスが分かるのに対して、文字だけの場合はそうはいかない。返事が少し遅くなっただけで、自分の意図とは違う意味合いで捉えられてしまったのかもと不安になることがある。そういった面も、レインツリーの国には上手く表現されていると思う。

誤解を解いたり、自分の意見を主張したり必死にメールを打つ2人の姿が、もどかしくも味が出ている。とは言っても、デートをする度にすれ違いが起きてしまうのだけれど。そのすれ違いが、聴覚に障害を持つひとみと健常者の生き方、考え方の違いをよく表現しているとは思う。読み手としては、どうなってしまうのかとハラハラさせられるのも楽しい。

そして、障害者、健常者に関わらず人の気持ちを100%理解できるってそうそうないものだと考えさせられる。健常者だろうが、伸行みたいに父親が病気になって家族のなかで自分だけ忘れられてしまうなんて、同じ経験をした人でないと理解できない苦しみだろう。この小説では、障害者の心の傷と、健常者の心の傷それぞれに分けて描かれているからわかりやすいが、誰にだって他人には理解しがたい心の傷があるのだと思う。そういう心の傷がすれ違いの要因になってしまう。

読んでいてハラハラするけれど、案外、人間関係ってそんなものなのかなと、小説のなかだけではなく現実でも恋人や友人、家族間で言えることなので共感してしまう。

名前の秘密は最後に明かされる

ストーリーがほとんど伸行の視点で語られていることから、伸行の本名は『向坂伸行』と早い段階から明かされている。一方、ひとみのほうは、本名からとった名前だと言っているが、どうしても『ひとみ』って本名なんじゃないかと疑わずにはいられない。そして、ストーリーの終盤に明かされた本名は『人見利香』。本名と言えば本名だし、確かに人見という苗字は存在する。ひねりがなさすぎて、それが逆に良いとも思うのだけれど。結局、2人とも本名からあまりかけ離れない名前を使っていたということですね。

サイトがきっかでの出会いなんて、結構うわべだけの付き合いで終わってしまうものだけれど、この小説の2人はそうじゃない。しかし、終盤になってやっと、本名すら知らない繋がりに気づいて焦るところがいじらしい。切ろうと思えばいつでも簡単に切れる関係。これって、メールやチャットでの交流が多くなった現代ではありふれた関係で、同じような経験をした人って多いのではないかな。だから、小説にも説得力があるのだけれど、サイトでの出会いは危ないというイメージがある一方、伸行とひとみのように、きちんとした出会いもあるのではないかと思う。

そして、2人の本名だけではなく、小説のタイトルにもなっているひとみのサイト『レインツリーの国』。レインツリーってなに?と思っていたけれど、アメリカネムノキの別名とは。植物の名前をタイトルにすることは珍しくないのかもしれない。でも、別名ってなかなか知らないし、花言葉を絡めてくるなんてロマンチックすぎる!ストーリーの終わり方と、レインツリーの花言葉「歓喜」「胸のときめき」の繋げ方がしっくりくる。

最後まで読んで、あぁやっぱりベタベタで甘々な有川浩さんらしい恋愛小説だと改めて思い知らされる。障害を持っていようが、ごく普通の女の子である、ひとみの変わりようはまさに「恋」でした。

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