高校生のリアルな恋愛描写に共感できる
桂正和氏による、ファンタジー要素がないリアルな恋愛作品
著者桂正和氏と言えば、ヒーローアクションものやタイムトラベル、異次元やビデオから女の子が出てくるなど、「電影少女」「ウィングマン」などの代表的な作品にあるように、どこかしらSFやファンタジー要素が強い作品が多い。恋愛を扱った作品も多いが、どこかしら非現実的な背景や設定があったものの、I”s に関してはごく普通の高校生の日常的恋愛が描かれており、非現実やファンタジーのような要素は一切ない。コミックスの最終巻の著者の言葉では、I”s の連載は本当にしんどく、しばらく普通のラブコメは遠慮したいとコメントが寄せられていて、桂氏としてはファンタジー要素が入った作品の方が得意なようだが、性別や年齢を問わずに共感できる、心理描写や作画の緻密さは桂氏ならではで、さすがとしか言いようがない。
「電影少女」との違い
桂氏の恋愛もので有名な作品、電影少女では、主人公の弄内洋太をはじめ、ビデオガール天野あいや他の登場人物全ての心理描写が、セリフ、表情、モノローグを使ってかなり詳細に表現されており、読者に想像をさせなくてもどの人物の心理も克明に理解できるようになっている。それに対しI”s では、主人公瀬戸一貴については細かい心理描写がなされているものの、他の登場人物については表情やセリフで想像せねばならず、電影少女ほどのしっかりした心理描写がなされていない。
瀬戸一貴の恋の相手が、「本来手に届きそうもない、グラビアアイドルをやっている憧れのクラスメイト」ということもあり、相手の心理が見えないことで、読者も憧れのあの子が何を考えているのかわからない、という気持ちをリアルに感じることができる。全体像を見渡せたからこそやきもきした電影少女に対し、I”sでは「気持ちが見えないからこそのスリル」を味わうことができ、一貴に共感できる。
コミックス表紙のイラストが見事
I”sのコミックスは、とにかく表紙絵の女の子のイラストがリアルですばらしい。まるで写真のようであり、非常に生き生きとした輝きを放っている。桂氏によるとリキテックスという絵の具で描いているとのことだが、リキテックスは水彩絵の具のような効果も出せるし、油絵のような効果も出せる絵の具であり、ミュシャの影響を受けたと思われる温かみのある手描きならではの作画が見事である。
最近は着色をイラストが作画できるコンピューターに任せてしまいがちな漫画家が多いが、少なくとも桂氏はこの作品ではカラーイラストは手描きで仕上げており、桂氏の描く女性がすばらしいという評価を確固たるものにしたのが、このI”sでもある。
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