アイズは男性も女性も印象的
大きな魅力は男の子
桂正和さんと言えば美少女を描くうまさに定評がある漫画家さんですが、この漫画の一番大きな魅力は男性にあると思いました。
まずヒロインの伊織ちゃんやいつきが正統派らしく整った顔で描かれているのに比べて、男性陣は寺谷からヒゲミまで様々なキャラクターデザインが採用されています。
それだけでも男性キャラの存在感が強くなっていますが、内面描写も主人公の友達は豊かです。
伊織ちゃんはその本心がどこにあるのかあまり触れられず、一貴の恋を応援するようなそぶりを見せることもありますが、男性キャラクターは絶妙に仲間内で見たことがあるような存在感があります。
寺谷のように女性に浮ついているキャラが伊織の友達をフル意外性は抜群で、本当は真面目な人だと言うことが伝わってきました。
また主人公の一貴は等身大の高校生らしく女性に奥手な少年で、時に暴走してヒロインを困惑させます。
近年の男性向け恋愛漫画の主人公は女子との距離感が近くて家庭教師をしたり同棲したりしていますが、こうした点でもアイズは等身大の男性像を描いていると言えるでしょう。
思春期の男性と女性の距離感をアイズほど克明に描いている漫画はあまりありません。
重要な傍流のキャラクター
男性キャラクターの心理の描き方がうまい作者ですが、特に存在感があるのは越苗君と担任のヒゲミちゃんです。
伊織ちゃんは女優を目指しているだけあって強気な面も多い女性キャラですが、越苗君は挙動からデザインまでまるで正統派ヒロインのようです。
彼が担任教師に感じる恋愛感情はピュアであり、二人の恋模様がどうなるのかは注目ポイントでした。
作中で越苗君の恋が発展することはありませんでしたが、作者がBL作品に取り組んだらどんなものになるのだろうと考えさせられるほど引きが強い展開でした。
越苗君が丁寧に一貴の相談を聞いてくれる描写を読んでも、作中で一番女性らしく描かれているキャラクターだと思いました。
また周りの人たちが彼の恋に嫌悪感を示さず受け止めているのも作品世界の温かさを感じさせます。
自分の性別や性的思考に悩むのは思春期にはありがちな出来事ですが、そうした点をエピソードとして取り入れている辺りアイズの狙いが良く分かります。少女漫画のように、思春期の若者たちが抱える迷いや悩みに寄り添っているのでしょう。
また日本の恋愛漫画と言えば主流は少女漫画です。
少女漫画の世界ではBL作品は一定の地位を築いており、萩尾望都さんや竹宮惠子さんなどBLの大御所と言って良い人材も生み出しています。
しかしBL作品で初版100万部を突破した漫画は未だありませんから、恋愛漫画でそのハードルを越えた桂さんにはそこにチャレンジしてみてほしいと感じました。
男性の内気な心理や女性性を描ける漫画家だからこそ、そうした作品を読んでみたいと思わされました。
恋愛作品における主人公
少女向けの恋愛漫画において主人公が迷わないのは重要な要素です。
例えば特定の男性に恋をしている主人公が他の男性にアプローチしようものなら読者に嫌われてしまいますが、アイズの一貴はメインヒロイン以外にも色々な女の子にフラフラしてしまいます。
しかし十巻以上続いている漫画として見た時、定まらない一貴の気持ちは読者に対するうまいギミックになっており、物語を最後まで読み進めさせる重要なファクターです。
アイズは最終的に一貴が誰とくっつくか分からないからこそ、累計100万部以上を売り上げた恋愛作品になっていると感じました。
また一貴の浮気性とも言える性質は読者にとって男性「あるある」を感じさせる一つの要素です。
女性に免疫がない思春期の少年を描く上で、リアリズムを重視していると言えるでしょう。
伊織からいつきまで様々な女の子に惹かれる一貴の人生を追う中で、読者に愛とは何だろうかと考えさせるのはうまい作りだと思いました。
また数ある女の子の中から一貴が誰を見いだすのか、彼にとって恋とは何なのか、成長が気になります。
恋愛作品は多くの場合主人公と相手役の人がくっついた時点で終わりです。
ウジウジ悩む期間は読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。しかし一貴の気持ちが長く揺れ動いているからこそ、漫画として常に波乱に満ちた展開ができている構成もうまいと言えるでしょう。
個人的には迷いと報いのバランスが絶妙な作品でした。
リアリズムを重視したイラスト
近年のジャンプ作品で見られる恋愛漫画は、良くも悪くもコミック的です。
男女のキャラクター造形は現実的な人物よりもデフォルメされており、異性同士の関係性も漫画的な距離感で描かれています。思春期特有の忸怩たるすれ違いや空回りを、その湿度も含めて再現しているものは少ないでしょう。
しかし漫画の累計発行部数を確認すると、上位に入っている恋愛作品は男女の間にある絶妙な距離感をリアルに描写しているものが多く、恋愛作品はそうしたものがウケることが分かります。
桂さんのアイズはまさしく思春期特有の異性に対する独特な距離感を再現している点が特徴的でしょう。
電影少女でも類似の関係性は描かれていましたが、アイズはSF要素を捨てて視点を主人公の男の子一人に限定しているからこそ、そうした手触りがより一層強く感じられると言えます。
何度も伊織ちゃんに距離を置いては戻ることを繰り返した一貴を描ききったからこそ、一番最後に描いた「強さ」が際立って感動的です。
女の子に臆病になってしまう一貴を長く描いてきたから、最初の頃から主人公が持っていた「伊織ちゃんを守りたい」という勇気が綺麗にラストに昇華されているのです。
うまく恋愛作品としての魅力と少年の成長物語をリンクさせた感動的な作品になっていました。
最終的に伊織ちゃんが女優の夢を捨ててしまったのは少し残念でした。
一貴が夢を追う女の子を支えられる少年に育ってこそより一層成長を感じられたんじゃないかなと思います。
この辺りの展開は読者の反応を見て考えたのか、気になるポイントでした。
日本では恋愛漫画と言えば女性作家の描く少女漫画が強いのが現状です。
しかしアイズでは男性作家だからこそ描ける内向的な少年の心理にチャレンジしているので、女性作家とバッティングしない漫画になったと言えるでしょう。
思春期の女性心理を描ききっている女性漫画家の作品とうまく差別化されています。
その一方で少女漫画のように恋愛だけでなく自分の夢や資質に悩む少年の姿が描かれており、思春期特有の感性もしっかり掴んでいるのが感動的でした。
絵作りと言う面で見ても、キャラクター造形はコミックイラストにリアリズムを絶妙に混ぜているのが魅力的です。
桂さんは電影少女を描いていた時期に入院生活を送り、その際イラストにリアリズムを混ぜるようになったとのことですが、現実にいる美少女を意識できる女性の造形は芸術的です。
漫画イラストは女の子の目が大きくなりがちですが、パーツのサイズを抑えているからこそ女子の印象が現実寄りになっており、リアリティのある存在感が生まれているのです。
分かりやすい構成とシーンの魅力
また漫画としては展開の情報量に過不足なく、常に読みやすいのが魅力的でした。
分かりづらいと感じる箇所は一つもなく、印象に残るシーンもあります。
個人的にはいつも告白を意識して失敗してきた一貴が自然と電車の中で思いを伝える場面は感動的でした。
告白慣れしていない高校生がふいに踏み出せた第一歩と言う手触りがあってドキドキさせられます。
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