ウディ映画に捧げた愛あるオマージュ - ジゴロ・イン・ニューヨークの感想

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ウディ映画に捧げた愛あるオマージュ

4.94.9
映像
4.8
脚本
4.9
キャスト
5.0
音楽
4.8
演出
4.8

目次

一人の映画を愛するニューヨーカーがウディ映画に捧げたオマージュ

この作品、何の情報もないままに見たら、普通にウディ・アレンの作品かと思うのですね。実際キャストの一人としてウディ自身も出演しているし。

通りには黄色い落ち葉が降り積もり、思い思いの格好をした人々が行き交う秋っぽい空気感のマンハッタンが舞台で、落ち着いてリラックスした大人な雰囲気で、音楽も温かみのあるルックも粋で可笑しい会話もそこで生きる人々の悲喜こもごもも、いかにもウディ・アレンの世界。

しかしこれは俳優ジョン・タトゥーロが監督した、彼にとって3作目の監督作品です。彼の監督作品を見た事がないので、彼の作風については何とも言えませんけれど、もちろんこの作品に関しては隅々までがてらいなくウディ・アレンに捧げられたオマージュだと思います。その思いに応えるようにウディ自身もいきいきと映画に参加しているのがいいなあと思います。

ジョン・タトゥーロはきっと、一人の映画を愛するニューヨーカーとして、ウディにニューヨークでこういう映画を作り続けてほしかったのでしょう。同時にウディを含め「誰も」今のアメリカではこういう規模の、知的だけれど洒脱な大人っぽい作品を撮る事が叶わないので、じゃあ自分が、と立ち上がったのではと想像します。

ニューヨーカーのタトゥーロは、意外にもウディ作品で参加しているのは「ハンナとその姉妹」の端役だけ。スパイク・リー作品には多く出演していますが。それだけにウディとがっぷり四つで関わるこのプロジェクトはタトゥーロにとっては嬉しいことだったのではないでしょうか。

同時に俳優としてのジョン・タトゥーロ自身も、忸怩たる思いがあったのだと思います。タトゥーロと言えば、私の中ではコーエン兄弟の作品の常連俳優で、独特のクセがあって、知的なんだけれどまぬけな役もとにかく上手い手練というイメージ。2000年代初頭まではとても多作なのに、このところ見ないなーと思っていたのです。

随分前にテレビで「名探偵モンク」を見ていたら、主人公の弟役でタトゥーロが出ていて、あれ?久々に見たと思ったらテレビドラマの脇役にタトゥーロが?ほんとに本人?そう思いつつ見ていたらやっぱり何とも存在感があって上手くって。後にこの演技でエミー賞を受賞したとのことでさすが。

しかし、タトゥーロのような俳優が生きるような映画がアメリカではどんどん作られなくなり、活躍の場が狭まっていることは確か。このところの出演作は「トランスフォーマー」「トランスフォーマー2」「トランスフォーマー3」って・・・悲しすぎます。

誰よりも本人が一番それを嘆いていたのでしょう。この作品では実に繊細な演技を見せてくれて、ああ、やっぱりチャーミングな人なんだなあと再認識させられました。

そんな親密な思いに彩られたこの映画。クオリティは申し分ないです。良く練られて、しかもお話として面白い脚本も好感触。質の高い職人の仕事でしかし大向こうを狙う事なく、あくまで風通し良く心愉しい。難しいことは重々承知していますが、こういう映画をもっと作ってもらいたい。

ほんとの「最高のジゴロ」とは

この作品はさりげなく趣味が良くて、でも心にきゅんと来るのはあくまでシンプルな部分で、何とも気分がいい映画なのですが、特に好感を持ったのはこの映画における「いい男」の定義です。

タトゥーロ演じるフィオラヴァンテは、一般的な意味合いで想像される「ジゴロ」とは全然違うキャラクターなのですが、これはかなりぐっとくるジゴロっぷりです。こんな男性ファンタジーだとは承知の上で、このジゴロなら私もお願いしたいかもと思いますです、笑。

彼は世のある程度年を重ねた女たちの本音をくんだ、ある意味「本当にリアルな」理想の男性なのだと思います。分かってるね、というか、男性側のいかにも思いつきそうな勘違いやファンタジーを感じない。とうのたった女性から見てしみじみと「ほんとにいい男ー」なのですよね。男性は女性にモテようと思ったら鍛えたりあれこれするよりも、フィオラヴァンテの真似をすればいいんじゃないでしょうか。

彼はマッチョでもハンサムでもお金持ちでもなく、やりがいのあるステイタスのある仕事をしているでもなく、至って普通の中年男性。けれど、女性に対して自然で穏やかなリスペクトを持って接し、押し出しの強いところはなく、こざっぱりとしていて、はにかんだような優しさを持ち、けして不躾に立ち入らない。とにかく「不快感」と「圧」を与えない人。

大人と大人の率直で優しい関わり合いが素敵

この作品は、可笑しくて辛辣なウディ演じる老人が映画にいい味を添えていますが、やはり主演のタトゥーロと彼に関わる3人の女たちの魅力がそれぞれ素晴らしくて作品を生き生きしたものにしていると思います。

久々にカッコいいシャローン・ストーンを見たなあ。「シェフ!」でのヒロインも素敵だったソフィア・ガルベラとのレズビアンカップルぶり、どちらもセクシーで吹っ切れた面白さがあって。人間味ある力強い優しさも良かった。

そして、ヒロインのヴァネッサ・パラディの魅力的なこと。素晴らしいキャスティングでした。古くはシャネルのミューズ、レニー・クラヴィッツの恋人で歌手としても成功し、近年ではジョニー・デップの元妻、のイメージだったパラディですが、この作品においては彼女自身の生き様を感じさせる堂々とした、抑制の効いた、そしていたいけなアヴィガルというひとりの女性に惹き付けられました。彼女自身も(デップとは違って・・・)しっかりと人生を歩んできたのだろうなと思わせる、そんな威厳のある佇まいのパラディでした。

フィオラヴァンテとアヴィガルのプラトニックな大人の恋愛、切なく胸に沁みました。あくまで重たくなく、けれど心地良い後味を残す上質な作品でした。

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