何か、動物愛護的な内容を想像していたら…
甘い音楽に乗せて語られる、子どもの頃の甘い記憶
物語は、カナダ人作家がインド人の男性を尋ねる所から始まります。
インドの甘い女性の歌声に乗せて、美しい動物たちのたくさんのショット。
命を育むモンスーンに生まれた少年、パイことピシン・モリトール・パテルの生まれてからの人となり。
美しい仏領ポンディシェリの風景。
リアリストの父親。優しく美しい母親。兄。
初めてできた恋人。
ポンディシェリが仏領からインドに返還されるという不穏なシーンもありますが、子ども時代はとても幸せだった。
そんなパイの想いが伝わってきます。
不穏な船出、そして遭難
その甘く優しかった恋人とポンディシェリに別れを告げ、パイ一家はカナダに到着した時に売却する為の動物達も貨物に乗せ、カナダへと旅立ちます。
そこで起こるあまりに突然な事故。そして愛する人たちとの別れ。
大人になったパイは劇中で「生きる事とは手放す事だ」とカナダ人作家に語りますが、本当にこの映画にはたくさんの別れのシーンがあります。
気づいたら救命ボートには何匹かの草食獣、肉食獣がが乗り合わせますが、大人ならこの後船の中は大体ながらも想像がつくというもの。
そしてその通りになってゆき、パイ少年の細腕では起こる事を受け入れるだけで精一杯。
過酷な遭難生活の始まりです。
虎と共に成長して行く少年。そして衝撃のラスト。
漂流を続けるうちに、次第に生きる術を身につけて行くパイ少年。
トラとの共存はできない。しかし、何度も始末できるチャンスはあったのに、トラを生かす方を選ぶ。
いつしか恐ろしかったトラは自分の漂流生活の孤独な相棒になり、自分の生きる気力を支える存在になっていく。
途中、何度も飢え、乾き、狩り、対話し、そして不思議な浮き島にたどり着く。
上陸をして、飢えと乾きは癒されるが、そこに滞在は続けられないという事実…
そしてその後も漂流を続け、ついには太平洋を横断してメキシコに到着。
そこで、また辛い別れを体験します。
劇中やはり大人のパイが「本当に大事なものには別れが言えない」と語りますが、恋人、家族、トラには誰一人として別れを告げられていません。
ラストシーン、病院にやってくる日本人の2人連れの調査員。
そこで語られる、パイ少年の語る本当の話。
それを聞いて、初めて全てがつながります。
なぜ、パイはオランウータンとだけ会話をしたのか。
なぜ、幌をめくった時に船底にはシマウマとハイエナの死体しかなかったのか。
なぜ、パイが事故から目にしたもの、体験した事全てがあまりにも幻想的に美しかったのか。
どれだけ起こった事が辛くとも、この映画の全体に流れる雰囲気は甘く、冒頭と終盤に流れる女性ヴォーカルの歌はまるで母親の子守唄を連想させます。
この物語の全ては一度もパイを責めず、起こった事全てに対しての赦しを感じます。
そしてライフ・オブ・パイ(πの人生)というタイトルには、「人生とは一生かけて考えても、誰にも答えの出せないもの」というメッセージがこめられているとても素晴らしい映画。
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