地球のために,肉親殺しができるか?
絵は不揃いだし,動きもめちゃくちゃなのに,なぜ心に突き刺さる
はっきり言って,良い声優を集めたにしては,お粗末な絵でした。でも,テーマの重さに惹かれて見たのですが,そりゃあもう,口から砂を吐きたくなるくらい残酷でした。なのに,ラストで私は夕飯の支度をしながら『よかったね。やっと楽になれて』と呟いていました。彼は廃人同様になり知能は幼児レベル。車いすで恋人の介護なしでは生きられなくなっていました。その方がましなほど,肉親殺しの罪の意識は重かったと思います。
父親の遺言は『肉親殺し』
自分の身を盾にして次男坊を逃した父親の最後の言葉は『あいつらはもう人間じゃない。私の代わりに肉親を殺して欲しい』。異星人に体を乗っ取られた兄弟達は,必ず地球を攻めるだろう。だから,地球を滅亡させない為に,兄弟を殺してくれ,と。その中には自分と一卵性双生児の弟もいます。今までのアニメの常識では,タブーだったことを,父親のいまわの際の言葉という『鎖』で主人公を縛り付けるなんて。父親は一人の親である前に,科学者であり,地球人であったのです。わが子達に大罪を犯させない為に,食い止めたかったのでしょう。Dボゥイは血の涙を流しながら,戦い続けました。地球の人口は7割を切ったのです。兄弟達は文字通り『殺戮者』でした。そして,兄弟に対抗できる力を持つ地球人は,Dボゥイだけでした。
戦争は友情ごっこじゃない
地球産のテッカマンも出てきますが,技術力でかないはずもなく全滅~!。その恨みすらDボウィに向かうのだから,地球全体が憎悪の固まりです。孤立していくDボゥイに同情するものは少なく,針のむしろのまっただ中で戦う姿は痛々しいです。ですが,そうなってしまったのはすべて彼の家族のせいと思うと,仕方がないのかもしれません。戦争は,きれい事ではありません。
もしもDボゥイの立場になったら,あなたは?
通常のロボットアニメなら『みんなで力を合わせて』とか,ガンダムみたいに優れたパイロットやSEED持ちが,ガンガン戦いますが,ブレードは肝心の地球軍からも「出て行け、親の敵!」みたいなことを言われて敵視されます。救いのない戦いが続き,見ている方が疲れました。双子の一騎打ちもかろうじて勝利して,尊敬していた兄を殺して。父親の遺言を叶えた青年は,廃人になってしまいました。ここまで残酷なアニメは,珍しいでしょう。よくPTAからクレームが来なかったものだと,別の意味で感心しました。誰だってキラ・ヤマトにはなりたくてもDボゥイにはなりたくないでしょう。この手で肉親殺しなんてごめん被ります。でも,自分がDボゥイで逃げ場のない戦いをすることになったら,まともな精神状態を保つ自信がありません。だからこそ,ラストのたどたどしく恋人の名を呼び,赤子のような無垢な笑顔を彼女に返すDボウイを見て,よかったねと言わずにはいられませんでした。お気楽な美少女アニメや3次元世界で遊ぶ物語が多い今,ブレードは戦争の悲惨さ,むごさ,一人の人間が壊れていく様を,これでもかと見せてくれました。願わくば,Dボウイの余生が,心安らかならんことを祈っています。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)