仁とは思いやり・いつくしみのこと
もしかしたら医者になれる
もしかしたら、自分も医者になれるんじゃないだろうか…とこの作品を見ると思う。単純に作品に感銘を受けて、医者になりたい!と思った人もいるかもしれないが、私の場合は、医者に憧れるという意味ではなくて、「あら、医者って誰でもなれるんじゃない?」と思ってしまったのだ。これはちょっとした開眼である。現代のシステム上、医者になるには、猛勉強をして大学を出たり資格を得たり、そのために時間とお金を掛けなくてはならない。けれど、このドラマを見ていると、実はそのシステムが無くても医者になることは出来るのだ…と、今さらながらにそんな当たり前のことに気づいた。医者になるためには、医学を学べばいい。医学の知識と技術を手に入れれば、人を助けることができる。
人命を助けられれば「医者」というのであれば。医者になるには、資格や免許の壁を頭に浮かべてしまうが、そもそもは先人たちの知恵を受け継ぐものが医学なのだと、考えが改まった。何で、義務教育で「医学」がないのかなー、なんて思ってしまうくらい、誰もが知っておくべきことなのではないかとさえ思う。例えば、道徳の授業を増やすよりも、医学の授業があれば、人は自然と道徳を学びとるのではないかと考えたりした。このドラマは、職業ドラマのジャンルでは縛れないが、医学の世界に人を引き込むような作品になっていたと思う。
タイムスリップしたのは医術
登場人物たちも、未来から来た南方仁という医師の医術に引き込まれていくのだ。ふとしたきっかけで、医学の世界にはまり込んでいく、そういう「はまりこんだ人間」が医者になるのは正しいことのように思う。人が何かを志す動機として不自然なところがないからだ。今作の題材として、パラレルワールドがあげられるが、タイムスリップした主人公の南方よりも、武家の娘の咲や南方に関わる医師たちの方が、よほどに医学のパラレルワールドに突きだされたのではないだろうか。つまりは、何が何やらわからないけれど、信じる以外ない世界、「外科手術」が目の前で展開されるのである。
タイムスリップの物語はよくあるけれど、自己中心的な問題が描かれることがほとんどだったと思う。恋愛のことで悩んだり、未来を変えるために過去を操作したり、ただただ、時代の違いを楽しんだり、そういう筋のものが多い中、今作は一風変わっている。未来人が未来の知恵を持ち込むとどうなるのか、しかもその知恵が医学なので命にかかわってくる。そこで初めて運命がどう展開していくのかが問題視されるという構図。従来のタイムスリップものの要素もありつつ、それさえも「医学」を際立たせるような味付けになっていると感じた。それが面白い。
運命は性格に寄り添っているのか
勿論、見る人によっては、恋愛に注目する人もいるだろうし、維新の時代に着目する人もいるだろうけれど。色々な見方ができるくらいに、どの部分もうまく絡み合っていて、隙がない脚本になっていた。南方のキャラクターも、物語の成功に一役買っていて、原作の方ではもう少し気概のあるひげ面の人物なのだが、ドラマでは「やさ男」。ドラマ笑顔大賞なんてのがあったら、間違いなく上位に入賞できるくらい、笑顔が印象的だ。そんな医師の性格がこの物語の軸になっている。違う性格の医師だったらどうなったのだろうとか、考えるのも面白い。全然違う展開になって、それでも時間の作る運命の結果は変わらないのだろうか。性格の違う人間になると、集まってくる人間もまた変わってくるのだろう。そうすると、起こる出来事も変わっていくだろう。人によって選択することが違い、結果も変わってしまうような気もするが…。作中にはよく、運命について考察するナレーションが入るが、見ていて思うに、命がどうというよりも、性格が変わらなければ、そこそこ運命も変わらないのではないか。そんな気がするくらい、人が人に影響を与えるのを目の当たりにできるドラマでもあった。作中ではよく「この人だったらどう思うか、どう行動するのか」とか「恩」とか、出会いで生まれる心の絆が、人物の行動を問う場面がある。人はどうしても、自分を客観的には見れないものだから、人の命を奪ったり、自ら捨てたりに走ることもある。反面で、それを食い止めたり、自己犠牲を払って守ろうとする。今作中ではよくその問答のような物語が展開されていた。
染み入る花魁言葉
「我」と「無我」があるが、このドラマの主要人物たちは「無我夢中」な人たちが多く、見ていると純粋な優しさを感じる。粋とか、美徳とか、強くて美しい在り方とか、そういった心意気が久しぶりにすっと入ってきた。特に女性陣は惚れてしまうような役柄で、その証拠に、思わずセリフを真似てしまう人もいたのではないだろうか。そんな言い回しなども珍しく、時代物であることでより強く心に残った。時代物とはいえ、タイムスリップしてきているので、この人たちが「ご先祖様」という意識がどこかしら離れないのだ。それで余計に素晴らしく見えてしまう。「日本人とは」なんて考えさせられたりするのだ。
正直なところ私は面白い作品とは思えず、大きく感動したりはしなかったが、情緒は存分に味わえた。飽きずに完結編までの22話分見終えることができた。ちょっと長く感じたのは音楽のせいかもしれない。いかにもな曲で悪くはないのだが、アップテンポのものでもマッチしたように思う。そういった意味では、そんなに冒険のない演出だったなあ。今と比べて何にもない時代が舞台である。だからこそ出来ることは何でもしてみたい時代だったと思う。そんな勢いのある明るさが表現されても良かったかもしれない。
血のつながりは暖かい励まし
その時代、チャンスがとても貴重で、逃がせなかったのも、見ていてリアルに感じられた。どちらかというと優純不断な南方は、現代の癖を表しているように見えた。いつも、周囲の人が背中を押してくれている。この時代のチャンスとは、生きていることそのものだったのかもしれない。そして、本当は今、現代だってそうなのだ。今がまた未来につながっている。やはりこのドラマは「つながり」を感じさせる。最後は、ミキの手術を担当するところで終わる。少々、疑問が残るラストシーンだが…過去から励まされ、未来に前向きになること、そんな風に南方が成長したのだと取ればよいのだろうか。
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