西加奈子のおすすめ作家、山崎ナオコーラを初読
西加奈子と仲良しみたいなので「友達のトモダチ感覚」で読んでみた
山崎ナオコーラの作品自体に何の予備知識もない状態で「男と点と線」を読んでみた。
西加奈子作品が好きで、「甘い果実」という短編に山崎ナオコーラという作家が登場したり(かなりシュールな話で女性だったはずなのにいつの間にか男性、という実在の山崎ナオコーラとはおそらくかなり違う存在で登場している)、「ダイオウイカは知らないでしょう」という和歌集でゲストで出ていたり、直木賞受賞時のトークショウでトーク相手として指名していたようなので同年代の作家仲間として仲良しなのだ、とは知っていた。いわゆる「加奈子ちゃんの仲良しやったらウチも会ってみたいわ」という感覚で本作「男と点と線」を手に取ってみたのだ。で、「友達のトモダチって最初はすごくしっくりこない」という私が勝手に言っている定説は証明された、と思う。最初の作品、「慧眼」は正直なところ全く自分に合わない、と思った。
「加奈子ちゃん、なんでこんな人とトモダチなん?」て感じだ。4本目の「膨張する話」までは我慢して読んだ、と言ってもいい。
以下、その4本の耐えがたいところをあげつらってみる。
ちょっと苦行に近かった4本の短編
「慧眼」は何と言ってもこんな感覚が研ぎ澄まされた現代ボキャブラリーたっぷりのおじいさんはおらんやろ!と突っ込んでしまう。芸術家とかタレントとか浮世離れした設定なら理解もするが、普通のしがない68歳のおじいさんには到底ない表現があふれている。ティーン向け少女漫画誌に出てくる「女性が想像する男性」のちょっと年配バージョンなんだろうな、と納得しようとしてみたが、作中のクニヤス氏はどう見ても40~50歳くらいの男性にしか感じられない。68歳のおじいさんは奥さんのシャープペンシルに「スピード狂」などというニックネームは付けないし、奥さんの声を「メゾソプラノ」などという表現はしない、だろう。おそらく絵にしたらやたら目が大きく活力ある瞳なのに額のしわとホウレイ線で、ああ、作者はこの人をおじいさんとしているらしい、と思わせる感じだ。
この時点で「加奈子ちゃんのトモダチでもこの人とは付き合えんかもしれん」と思う。
続く「スカートのすそをふんで歩く女」は年齢層はぐっと若くなって、まあこの年齢ならこんな男たちはいるかもね、という気はするがとにかくちゃらい。やはり一方的に女性目線、昔のヤオイ系同人誌とかBL誌を見ているようで辛かった。
「邂逅」はファンタジックな設定のせいで違和感は感じなかったが、それだけだった。
「膨張する話」に至っては「女性作家が10代男子の勃起や性欲を想像して書きました!」というウリ以外何もないように思う。デビュー作が「人のセックスを笑うな」というちょっとセンセーショナルなタイトルなので2匹目のドジョウ狙いか、とうんざりもする。内容もやはり同人誌を読んでいるような感じだ。初出時期を見ると「慧眼」と「膨張する話」が2006年、デビューして2年ころの作品なためか、やたらと青臭い。それ以外は2008年以降で少し落ち着いてはいるかな、とは思うが面白いとは思えない。
そういう訳でここまでなら、「ああ、加奈子ちゃんのトモダチになんか同人誌作家のヒトおったね、なんとかコーラちゃん」で終わる感じだった。
この時点で著者本人の小説に対する思いなどを拾えないかと調べてみたところ、インタビュー記事をゲットできた(本の雑誌社:作家の読書道)。その記事で本人が語っていたのが「いろんな年代の人を書けるということには自負があります」と明言している。こんなキラキラじいさん書いてて「自負がある」のか、と衝撃を受けた。この人イタイかも。
表紙に「男」という文字があるだけに彼女なりに「男性」を描いた作品を集めているようだが、彼女が描く「男性」はチュパカブラとかイエティとかと同様の「想像の産物」だ。
何とか土俵際にとどまった「男と点と線」「物語の完結」
後半の2本で先の4本の最悪の印象はなんとか覆した。「物語の完結」は女性目線な上、小説家という設定の主人公なので彼女自身の思いが伝えやすいのだろう。読んでいてまったく違和感が無い。前述のインタビューで「自分の武器は文章しかなくて、それで社会参加したい」という記述もあるが初めてここでその文章力を味わうことが出来た。友達とコンロに火をつけそこなうシーンなどはさりげなくも深く印象に残る。不器用な私と、友だちが「少し」「怒った」ことを素直に表現できる心地よい距離感が絶妙だ。こんな作品なら付き合っていけそうだ、という気がしてくる。
表題作「男と点と線」では「男」を扱っている本短編集の中で唯一違和感なく共感できる男性が描かれている。さおりと亜衣という女性キャラ2人が明瞭で、文章表現から姿が想像できるほど克明なのでそのカウンターキャラとして惣という男性が説得力を持って存在できているように思う。扱っている内容が愛情であることもいいのかもしれない。
惣は何かのライターらしい。2枚目ではなさそうだがブルーノート東京に行ったり、ジャズを聴いたり、という女性が最低限男性に持っていてほしいのではないかというたしなみを持っている。この山崎ナオコーラという作家は、男性の「老い」や「仕事に対する取組み」といったリアルを描くのははっきりと下手だ。劣っていると思う。もしかして女性目線だと思われるので女性が見たら面白いのかもしれないが私には受け入れがたいものがある。とは言えこの2本でなんとか土俵際に踏みとどまった。せっかくの加奈子ちゃんの紹介なのでもうちょっと付き合ってみようかと思う。友達のトモダチは果たして友だちになりうるのか。怖い反面楽しみでもある。
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