2度見ると面白い。3度見ると更に面白い、精巧なディテールを感じる。
騙されることが醍醐味だ!
無冠の帝王(だった)ディカプリオ。わたしは大人になってからのレオの演技がとても好きだ。ディカプリオは本当に奥さんに恵まれない役が似合ってしまう、報われない男だなぁ…。
さて、本題。この作品、いわゆる「ラストにはどんでん返しがありますよ!」と謳った映画。宣伝としてはありきたり。
1度目は演出家が望むように騙され、泣かされ、驚かされ、2度目に役者や演出の細かな細工に注目し、「初めから全部作り物」として見て初めて作品全体を理解できると思っている。
わたしは謎解きをしながらストーリーを追うなんて器用なことはできないので見事に2度楽しめたが、きっと勘のいい人なら開始10分で謎がとけるんだろうなぁ、と。
そのくらい、分かりやすく「違和感」と「伏線」が散りばめられている。
…個人的に好きなのが、島に入る際に武器を取り上げられるシーン。
アンドリューは元保安官で手馴れているためすぐに取り外せるけれど、相棒…シーアン氏は医師なので取り外し方が分からずもたついてしまう。
警備副隊長が「怪訝そうにそれを見ている」という演出だが、2度目に見ると「これ大丈夫?怪しまれない?」と心配しているように見えるから面白い。
コスプレしているようなもんなんだから…と思うと微笑ましい。入り口で銃を取り上げることを分かっているなら練習しておいて!とも思うが。
シーアン先生はその後も、何か発言する度に院長に視線で訴えたり顔色を見たり、アンドリューの話を聞くときはカウンセリングの体制。
院長もしっかり目をみてゆっくりと話すので、カウンセリングにしか見えなくなってくる。
彼らの表情や視線の動きは注目しているととっても面白い。
しかし、警備隊や医者、看護婦をここまで巻き込んで演技をしてくれる…なんとも大規模な治療である。愛されてるね、アンドリュー。
抱えきれない感情はどこへ?
精神分析について講釈垂れる気はないが…単純に、「頭の回転が良く、戦闘経験があり衰えていない肉体をもった凶暴な患者」は物凄く持て余すだろうなぁという感想。
テディ、もといアンドリューは後悔や悲しみ、過去のトラウマ、自分の怖いこと、認めたくないこと全てを箱にぎゅうぎゅうと詰め、「現実逃避」という脆い蓋で閉じてしまった。
それでも、自責の念や後悔は尽きることがない。自分を保つためにいくつもいくつも箱を取り出し、尽きることのない恐怖を詰め込むものだから箱はどんどん積み重なって、行き場もなく、その内に自分の視界を全部覆ってしまったんだろう。
でも、ふとした言葉、態度、視覚的認識で簡単に開いてしまうほど、その箱の蓋は脆かった。しかし溢れた感情を受け入れるキャパなど元よりない。
必死に逃げようとした結果、深層心理に潜む凶暴性を振りかざすことで何とかまた脆い蓋を被せることが出来た。しかしまた簡単に暴かれる。必死に蓋をする。その繰り返し。
溢れる感情を、少しずつでも処理できるようになれば…というのが治療の目的だったたのだろう。彼の心の拠り所が、人であれ物であれ、「現実」に存在していれば…少しは違ったかもしれない。
彼が最後に選んだ「死」
そして結末。手は尽くしたが彼に治療の成果がなかった、と判断した医師陣はロボトミー手術を行うことを決定する。シーアン先生は悲しげに瞳を伏せる。医療の成果より、勝利より、単純に患者を救えなかった悲しみが見える。
そんなシーアン先生に向けて、ひどく穏やかな声色でアンドリューはこういうのだ。
「ここにいると考える。…モンスターとして生きるか、善人として死ぬか」と。
そして、自ら立ち上がり誰に連れられるでもなく歩き出す。シーアン先生の声に振り返ることもない。
「本当に治っていなかった」のか「現実を受け止め、手術されることを選んだ」のか、問われる結末として締め括られているが…わたしは明らかに後者だと捉えている。
(「だってあのテディなら自発的についていくわけないじゃん!」と言ってしまえばそれまでだが)
アンドリューは、現実を思い出してしまうことよりも、受け止めることよりも、もう一度忘れてしまうことが怖かったんだろう。我が子を、大切な人を忘れてしまうことは自分の中で何度も殺し続けるも同然。そしてそのことすら忘れてしまったら、罪の意識すら感じなくなってしまったら、それはきっと自分を殺してしまうよりも怖い、わたしはそう思う。
自分が自分でなくなり、暴れまわる意志のないモンスターとして抜け殻のように生きていくよりも、今の自分のまま死んでしまいたかったのかもしれない。
これが彼なりの償い、といえば言葉が綺麗すぎるが、2年越しに、ようやく自分で下すことのできた最後の決断ではないか。
シーアン医師も、本当は気づいていたかもしれない。止めなかっただろうけども。
彼がもう少し「馬鹿になれたら」、救われる道もあっただろう。拭いきれない知性は、なんとも残虐なものである。
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