最後のどんでん返しが2倍になってさらにせつない - シャッター アイランドの感想

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最後のどんでん返しが2倍になってさらにせつない

4.54.5
映像
4.0
脚本
3.5
キャスト
5.0
音楽
3.5
演出
5.0

目次

シリアスな雰囲気と深まる謎

連邦捜査官として孤島にやってきたテディ。相棒のチャックとともに、島から行方不明になったという精神病患者・レイチェルを捜索する。ボストンの沖合にある孤島・シャッターアイランド。まさしく隔離されたその島では、精神病を患う犯罪者が収容されていた。「滞在中は病院のルールを守ること」それをコーリー院長から念押しされる2人。そりゃーそうだよね、精神病院って危険だもの。でもどこか怪しげなその雰囲気に、病院側の策略か何かでレイチェルは連れ去られ、殺されたのではないかを思わずにはいられない。

結末を知っているとすべての謎がつながるため、この映画は2回は見たほうがいいだろうね。そうでなければわからない言葉がたくさんちりばめられているからだ。例えば、

人間は思い込みは正せないのだ

という言葉や、

4の法則 67番目は誰?」という走り書き。さらには、レイチェルが自分の子ども3人を溺死させたという事実。“2年間回復の兆しがない“という事実。妻を殺したというレディスと言う男。何より

君は一人で来た

というコーリー院長の言葉。それらの存在はすべて本当の事実であり、テディそのものを表していたなんて…気づかされた時の衝撃と言ったらなかった。

島に滞在している間は頭痛に悩まされたり吐き気に襲われたり。それは病院側が何かを仕組んだとしか思えないような雰囲気だったのに、それはテディの精神薬を飲んでいないために起きた禁断症状だったのだ。あとからどんどん気づかされるから、もう辛かった…ちょいちょい「お前がレディスだ」とささやかれていたのは、ちゃんと自分で戻ってくれるかどうかを試されていたんだよね…。レイチェルらしき人がロボトミー手術の危険性を説いたのは、手術を受けずに戻ってほしいという想いが込められていたように思う。

ひっくり返って悲しい

テディはレディスであり、妻が3人の子どもを殺したのも事実。だけど、その妻を殺したのが自分だったなんて…知りたくもなければ思い出したくもない事実。それを閉じ込めてしまいたくて、狂ってしまったんだね。レディスが狂い始めた原因は戦争にあり、殺し合いの中で精神が疲弊し、心を壊してしまった。そしてそれに苦しみうつ病になってしまった妻のレイチェル。そして自分を楽にしてほしいとレイチェルに懇願され、レディスはレイチェルを銃で撃ち殺してしまう。それが決定的な打撃となり、精神が崩壊したレディス。架空の人物と設定を作り上げ、心の奥深くに閉じこもってしまったのである。

シャッターアイランドの職員や囚人たちがよそよそしかったのは、レディスが危険人物の指定を受けていたからであり、何をしでかすかわからないという恐怖があった。また、いつも同じことを聞き同じように行動し始め、自分を連邦捜査官だと信じて疑わない彼に対して、上手に対話することができなかったのだろう。医者たちが考えた、レディスのための大々的な治療でもあり、囚人たちのよそよそしい態度はむしろよくできた演技のようですらあった。レディスは、人格と記憶を失う可能性のあるロボトミー手術の前の、最終手段として、この実験の主人公を演じていたのである。

分かってはいながらも、レディスが犯人であったことについては純粋に悲しくて、それならどっちにしろ、進むべき道は決まっていたのかもしれない…そう思ったら、どうせならひっくり返らなければよかったのに、とすら考えてしまった。映画を評価するなら、その最後のどんでん返しを評価することになるが、繰り返し見てレディスのためにつくられた舞台なのだと知るたび、悲しい気持ちになるね。

レイチェルに関しては物議をかもした

洞窟で出会ったレイチェルはレディスの妄想である。そのように幕が閉じられている。しかし、レイチェルは本当にそこにいたのではないか?という説が持ち上がって、若干ネット上が盛り上がった時があった。もしレイチェルがいなかったのだとしたら、病院側も苦肉の策として、レディスを手術するしかなくなった、というようなオチになるとされている。一方、もしレイチェルという人物が本当に洞窟にいたのだとしたら、物語はすべて病院側が仕組んだことであり、レディスの心を叩きのめし自ら人体実験へと参加させるためのものだったという見方ができる、と言われている。果たしてどちらが本当だったのか…?

これに関しては、人体実験としてではなく、純粋にテディと名乗るレディスの治療として、これだけの一芝居をうったのだと信じたい。彼がいかに苦しみ、この状況に至ったのかを考えたら、救いたいと思うのが人間ってもんじゃないだろうか。どうしようもないと思うなら殺してしまうほうが早いし、ロボトミー手術は、純粋に精神疾患の治療として考えられていたものなのだから、人体実験ではないのだと思う。人体実験のように思わせる何かがあったから、物語の中でも恐怖の行いとして表現されていたんだろうけど、レディスを救うために医師たちががんばったのだと思っていたいのだ。そうでなければ、ただ悲しいだけだと思う。レイチェルが存在していたにしろいなかったにしろ、レディスが自分の力で底から戻ってこれるのかどうか?というのが大事だったんだと思うんだよね。

最後の選択に涙する

最後の選択がもう泣ける…1回目では泣けないのよ。2回目からぐっと涙が出まくる。

島を出よう。チャック。

と言っているレディス。彼はまだテディのまま、これだけの芝居を打っても彼は正気には戻らなかったんだ…落胆するシーアン医師。そしてコーリー医師たちに、回復の見込みがないから手術をするしかないと合図を送る。でもそれはレディスの嘘で、もう正気に戻っていたんだよね。モンスターのまま生きるのと、善人のまま死ぬのとどちらが大事なのかと言うレディス。手術を受ければ記憶の何もかもを失うが、それで自分という人間がいなくなって穏やかになるかもしれない。自分という人間が残ることで、またいつかのタイミングで何かが起き、誰かを傷つけてしまうかもしれない…思い悩んだ彼が選んだのがロボトミー手術であった、ということなのだ。医師たちががんばって、確かにそこにまともな人格が戻ってきていた。でもそれがずっと続くということが保証できないのに、その恐怖におびえながら生きていくことも辛いだろう。レディスの決断が本当に悲しく、でもカッコいいと思ってしまった自分がいた。

精神疾患ってせつないよね

精神疾患って、なりたくてなるものではないし、どんなタイミングで発生するのかもわからない。もちろん、過度なストレスのもとで何らかの変化をもたらすことは予測できるけれど、それを避ける生活が確実にできるわけでもないし、何らかの精神障害が発生することは誰にでもあるリスクだ。そして、生きている限り、いろいろな心の持ち主に出会うし、いろいろな自分自身の心の変化にすら出会うと思う。それが人に危害を加えるようなものなのか、そうでないものなのかという違いしかそこにはないのだ。レディスだって、静かに妄想を語るおじいちゃんみたいな人だったら、はいはいって流されてそのまま生きてはいられたんだろうなって思う。どちらが幸せだとも断言できないし、心の病だけは解決に至らない難しい問題なんだろう。もう神経回路の問題だからね。脳が錯覚したものを元に戻すことができるんだったら、あらゆるものが元に戻せる気がする。

手術を受けた後の彼が、どうか誰からも愛されるような人物になってくれていたら…と願ってしまうね。

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他のレビュアーの感想・評価

2度見ると面白い。3度見ると更に面白い、精巧なディテールを感じる。

騙されることが醍醐味だ!無冠の帝王(だった)ディカプリオ。わたしは大人になってからのレオの演技がとても好きだ。ディカプリオは本当に奥さんに恵まれない役が似合ってしまう、報われない男だなぁ…。さて、本題。この作品、いわゆる「ラストにはどんでん返しがありますよ!」と謳った映画。宣伝としてはありきたり。1度目は演出家が望むように騙され、泣かされ、驚かされ、2度目に役者や演出の細かな細工に注目し、「初めから全部作り物」として見て初めて作品全体を理解できると思っている。わたしは謎解きをしながらストーリーを追うなんて器用なことはできないので見事に2度楽しめたが、きっと勘のいい人なら開始10分で謎がとけるんだろうなぁ、と。そのくらい、分かりやすく「違和感」と「伏線」が散りばめられている。…個人的に好きなのが、島に入る際に武器を取り上げられるシーン。アンドリューは元保安官で手馴れているためすぐに取り外...この感想を読む

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