周囲の愛に包まれて、一つの道を極めた男の生き方 - 天皇の料理番の感想

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天皇の料理番

4.634.63
映像
4.88
脚本
4.63
キャスト
3.50
音楽
4.13
演出
4.38
感想数
4
観た人
7

周囲の愛に包まれて、一つの道を極めた男の生き方

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.0

目次

一人の男のただひたすらまっすぐな人生

何をしても長続きせず、厄介者として親も手を焼いていた人間が、一口のカツレツに感動し、その道を極め、ついには天皇の料理番にまで上り詰めた話である。大正昭和を宮内省厨司長として勤め上げた男の史実に基づいたフィクションだ。目標を見つけてからそれを極めるためにあらゆる苦労をものともしない。ひたすらまっすぐ前を見続ける様は見ていて壮観で、尊敬を感じる。そしてそこには愛も描かれる。全ての場面において涙なしでは見られなかった。優秀な長男と比べられ、誰からも相手にされなかった人間が、ここまでのし上がるとは当時の人々は思わなかっただろう。だが、なりふりかまわぬその言動は、本人からしてみればただ自分がやりたいようにやっただけのような気がしてならない。まっすぐと前を向き、それにつき進む大切さを現代の人たちに伝えてくれる演出と、気迫のこもった演技だった。

夫婦としての絆が物語を作る

主人公の篤蔵はどこででも方言で大きな声で話す。それだけで存在感を感じる。そして若いときはただただやんちゃに、年をとるにつれて厳しい顔つきに変化して貫禄をつける演技力は見事で、時代の流れや変化を知ることができた。身に付けているもの、登場人物の変化や背景でそれを知ることができるが、役者の演技力でも感じ入ることができることを改めて知った気がする。また、妻となった俊子は、夫を支える、その時代の良き女性をおしとやかに、でも意志は強く描かれている。この夫婦を作り上げるために、流産という命をひとつの題材にしている。篤蔵が東京にでたもとから始まる遠距離生活の中、一度は縮まった距離がこの悲劇を元に離れていく。そんな場面で雪が降っていた。肩にかかる雪を振り払う俊子の姿はなんとも切なく、そのときの二人の心境をトータルで表している。全てが計算されつくしているように感じた。二人はのちに理想的な夫婦として家族の形をつくっていくが、俊子は手本となる妻や母として描かれている。けれども、ただ付き従うのではなく、篤蔵の愛を感じることができるからこそ、一途に支えていけるのだろう。俊子にも産婆という道が開けた。その仕事を抱えてもなお妻に徹しているように感じるのは、お互いの愛が強く表現されているからだと思う。

なくてはならない存在が人としての成長を促す

篤蔵という人間性を成長させるのになくてはならないのは、優秀な長男の存在と上京して出会ったバンザイ軒の主人と妻である。篤蔵の夢を最後まで信じ、願い続けたまま亡くなった兄は、篤蔵の夢を実現させるためのおおきな原動力だったし、バンザイ軒は休息の場だった。オンとオフの使い分けをしている。皆が厄介者扱いをし、期待もしなかった篤蔵の早くからの見方であり、心の支えであった。なにより、ふすま越しに「励めよ」と言った声の深みが印象的でよく覚えている。兄の思いに答えようとまっすぐに前を見据える場面が大事な局面で描かれる。夢を実現し、天皇の料理番としてのゴールに向かうための道しるべのようだ。バンザイ軒の場面では張り詰めた空気が一変する。この夫婦はお互い勝手をしているが、そのあっけらかんとした振る舞いが、篤蔵も俊子も慣れない土地に慣れるきっかけを与えてくれる。そしていろいろなアイディアを生み出す。愛あふれる人間模様が見られるお店だ。不思議な夫婦な感は否めないが、篤蔵夫婦にはプラスに働いている。この二つが見飽きない構成として成り立っているのだろうと感じる。

人の心に入り込む、感動的なストーリー

このドラマは、一人の人間の成長を描き、その前を向く力とどんなにばかにされようがめげない強い心を伝えている。大正昭和という戦争も背景にあった時代、逆境もあっただろうが信じる道を見つけひたすら歩き続けた篤蔵の姿は、いつの時代でも通じる生き方であるし、今から何かを始めようとする現代の人たちをおおいに励ましたことであろう。また、家族の関係もしかりである。天皇の料理番としての地位を子供たちに打ち明けず、特に長男との距離が開くばかりだった。だが、大震災を経て配給所で篤蔵と長男が落ち合い、抱き合う姿は心からほっとするものだったし、わだかまりがありながらも篤蔵は自らを曲げず、息子は父の姿を見て理解するのは理想的な家族として憧れるものである。主人公の方言は少し面白いものがあったが、ひとつの物語の中で篤蔵のキャラクターを作り上げていた。天皇の料理番とはどのような仕事をするのか、どんな誇りを持っているのか、今まで考えたこともなかった。天皇につくものでありながら表にでることがない、しかも天皇の口に入るものだから重い責任がのしかかる、そんな環境で生きてきた人間が感じたことであろうことを初めて知ることができた。時代背景や、たくさんの、でも分かりやすい人間関係が、涙なくしては語れない、感動的なストーリーを生み出すことになったと感じる。もう一度みたい作品だ。

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他のレビュアーの感想・評価

こんなに大変な仕事とは思いませんでした

後世に残したいドラマ私が初めてこのドラマを知ったのは、今から37年前の1980年の事でした。当時まだ5歳の私でしたが、後に再放送で見ていました。主役は堺正章さんで、実際の戦争のシーンが挿入されるというドキュメンタリー要素も印象的でした。ナレーションには『男はつらいよ』でお馴染みの渥美清さんという豪華さで、当時もかなり力の入った作品だという事が分かります。出演者の中には明石家さんまさんも出ていました。当時はまだ大阪での活躍が多かったさんまさんですが、この作品で役者として全国区に知られる事になったそうです。堺正章さんとの漫才のようなやりとりが楽しかったのを覚えています。その後も高嶋政伸さんが主演され、2015年に佐藤健さんが主演となり再びリメイクされました。天皇陛下の料理番をされていた方のお話にももちろん興味はありますが、明治から大正、そして昭和へと移り行く世の中を後世に残すという意味でもこの作品はず...この感想を読む

4.04.0
  • yukiyukiyukiyuki
  • 190view
  • 2050文字
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人のために生きる

人生の目的佐藤健さん演じる秋山篤蔵は、カツレツを食べたことに衝撃を受けて、それからこっそり料理を習うようになりました。このことが人生の転機となって人生の目的を見つけましたが、兄の周太郎も日本大学の法学科に通っており、司法の道を志していましたし、後の妻俊子も結婚後産婆の道を歩みます。また、桐谷健太さん演じる松井新太郎は絵の道を志していたり、とこのドラマでは皆、人生の、生きる目的をはっきりと持っており、それの為に一生懸命です。私もその一人でしたが、将来何をしたらいいのかわからない、夢がない、何の為に生きているのかわからないという人は少なくないと思います。そういった人にとって、このドラマに出てくる人たちはどんなに辛い道であろうともとても魅力的で、かつ羨ましく、逞しく映ります。学歴だけじゃない、やりたいことを懸命にやることこそが重要なのだと伝えてくれる作品です。人の為に生きるまた、このドラマに...この感想を読む

5.05.0
  • onigirionigiri
  • 111view
  • 1136文字

泣けるドラマ

このドラマは、当時シェフという仕事がまだ定着しておらず、イタリアン料理など他の国の料理もまだ広まっていない時代のお話ですが、当時の時代背景を細かく再現、演出できており、見ているうちにその時代に飲み込まれてしまうようなドラマです。だめだめでみんなにバカにされていた1人の男が、自分のため、家族のため、妻のため、そして…料理を食べるみんな、天皇のために人生の全てを料理に捧げているという気持ちが演技や演出、音楽すべてから伝わってきて、気づいたらたくさんの涙が流れる作品となっています! 主人公がどんどん成長していく姿をみて、だめなやつでも努力次第では日本の頂点に立てる!夢は叶えることができる!という勇気をもらえることができます。また、料理をして成長していく主人公を見ていくだけでなく、恋の難しさや家族のありがたみなどを再確認できる部分もあり、とてもためになる作品でもあります。その他にも、難しい人間関...この感想を読む

5.05.0
  • operioperi
  • 45view
  • 557文字

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