彼は凶人か否か
自転車ロードレース物という見慣れない舞台に惹かれ手に取った一冊。
チームとしてエースを勝たせるためにアシストに徹するぼく、こと白石。決して自分が勝つことを望まず、それどころか『肩の重しを振り払って走ることができる』と表現する。小説のタイトルはサクリファイス、つまり犠牲。ああ、そういうことねと五十ページほどで高をくくった。
読み終わって一番に思ったのは、『そんな奴いないだろう』ということ。結局タイトルのサクリファイスは石尾のことと読み取れるが、余りにも荒唐無稽すぎる。その行為に至った理屈は分かるが、微塵も共感はない。確かに作中でも、真相が明らかになった後も石尾の決断は異質なことという扱いであり、著者自身も決して賛同の得られない孤高のキャラクターとして生み出したのではないかと私は思う。
ロードレースの影では袴田をクラッシュさせた過去や監督との折り合いの悪さを臭わせ、果たして石尾は信用して良いのか、という申し訳程度のサスペンス要素を軸にしているが、その実は彼の狂気を浮き彫りにしているにすぎない。
彼を「気高い」男ととるか、良くも悪くも「狂った」存在と取るかで、その読後感が大きく変わる作品であると思った。どちらであっても読み物として十分に楽しめる作品であるのは言うまでもない。
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