雪のひとひらのあらすじ・作品解説
雪のひとひらは、アメリカの小説家ポール・ギャリコが50代の円熟期に発表した中編小説作品であり、彼の代表作品の一つとして知られる。日本では翻訳家の矢川澄子により1975年に新潮社から刊行された。 本作品は、ひとひらの雪が発生してから消滅するまでの過程を、一人の女性の人生に例えながらファンタジーの形式で描いた物語である。ある寒い冬の日に空の高みで生まれたひとひらの雪は、地上に舞い降りた後春になって溶け水滴となって川を下る。途中、「雨のしずく」と伴侶となり子育てや夫との別れ、子どもの門出などを経験する。やがて訪れた最後の瞬間に、ひとひらの雪は自らのつつましくも誠実に生きた人生の意味を深く悟る。 一人の平凡な女性の人生を、雪の一生という自然現象に託して優しく細やかに描いたこの小説は、ポール・ギャリコの珠玉の作品の一つとして大変人気が高いものとなっている。 2015年時点では、新潮社から新潮文庫の一冊として文庫版が刊行されている。
雪のひとひらの評価
雪のひとひらの感想
童話?
なんだかよく分からなかったのですよー。きっかけは、〝文学少女〟シリーズ(「文学少女と死にたがりの道化」だったかな)で触れられていたこと。すごく褒めてあったので、どんなもんかなー、と。これは童話に分類していいのだろうか?あとがきの解説には、なんだかそれっぽいことがいろいろと書いてあったけれど、勘ぐり過ぎのような(悪く言えば、深く解釈し過ぎのような)気もして、あんまり共感できなかった。雪のひとひらの一生? とでも言えばいいのか。それがつらつらとつづられているのだけれど、大人向けなのか子ども向けなのかすらよく分からなかった感じ。期待値が高過ぎたのかもしれない。
儚くて、切ない物語
ひとひらの雪を女性と仮想し、生まれてから死ぬまでを描いた物語です。山に降り積もった雪が雫となり、川を下り、仲間と出会います。そして、伴侶を得て、子どもが生まれ、子どもたちはそれぞれ別の流れに乗り、独立していきます。さらに、伴侶も消え、彼女自身も消える時が来ます。しかし、それは雲となり、新たな生の始まりでもあったのです。そこには、ワクワクするような冒険はありません。情熱に満ちた激しい恋愛も、涙を誘うような悲劇もありません。ただ、淡々と、まるでライフサイクルの典型のような一生が描かれるだけです。それなのに、なぜか、心の深いところから、切ないような気持ちがわき上がってきます。たぶん、特別なことなどない、ごくごくありふれた人生こそ、真に幸せなものだと実感させられるからでしょう。他人の活躍や才能をうらやむのではなく、自分の人生を大切に生きることで、初めて人生に充足を得て、静かに死を迎え入れること...この感想を読む
小さな雪の、大きな旅
ポール・ギャリコの作品の中でも、わりと知名度が高いものではないだろうか。この新潮文庫の表紙が、作品の雰囲気に凄く合っている。既に1冊持っているというのに、この表紙のためにまた買ってしまった。往年の名作の表紙を変える商法は本当にずるい。内容は、山の中で生まれ落ちた雪の結晶が川の流れに沿って旅していく中での一生を描いたもの。キーワードとしては『人生』になるのだろうが、生まれ落ちた雪のひとひらの純粋さと無垢さに人間を仮託してしまうのは少し躊躇われる。ただ、ギャリコは、人間は生まれたとき、誰もがこの雪のひとひらと同じように真っ白だったとしたいのだろう。その心情は理解できる。たまにこの作品を子供向けのおすすめ作品にリストアップしているのを見るが、これを読むべきなのは子供ではなく大人だ。社会の中核として働く大人に、この作品を読んでほんの少し涙して貰いたい。ギャリコの作品は、大体が大人のための童話だ。この感想を読む