作品構成
「父と娘の愛情」は桜庭さんの作品のテーマの一つとされるが、その最終形態とも言えるのがこの作品である。
冷たい北の海という舞台が2人の狂おしい愛情を助長する形で物語が進んでいく。
この作品は、時系列が逆になっている。社会人であった花は物語が進むにつれてどんどん小さくなっていくのだ。そこにはどんな意味があるのか。
つまり通常の作品であれば花の成長と共に事の結末を迎えることで登場人物と一体になり、臨場感を持って読み進めることが出来るのだが、この作品では最初に結末を知り、その後徐々に原因を探っていく構成なのである。
しかし、そこには文学的な意味が存在するのである。実は淳吾と花の愛情表現は物語が進むにつれて徐々に深く、とりとめもなくなっていく構成なのだ。
もちろん、成長するにつれて愛情が薄れていくわけでは決してない。しかし、時間が経つにつれて淳吾は年を重ね、次第に性的に衰えを覚えていくのだ。そればかりでなく、花が成長することにより父と娘という禁断の関係を維持するのが難しくなっていく。お互い愛したいけど昔のように素直に愛せなくなっていき、また、子供の頃には分かった相手の気持ちが少しずつ読みとりにくくなっていく。
そうしたことから2人の距離がどんどん離れていくのだ。
それを逆から再構成することにより2人の関係が幼少期からの異常なものであることを読者に徐々に伝えていくのである。
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