色モノの皮を被ったピュアな恋物語
ピュアっピュアな少女漫画
『俺物語!!』は2015年に立て続いてアニメ化・ドラマ化したことから、一気に世間に認知された漫画だ。主人公・猛男のビジュアルに近づけるべく、増量まで挑んだ鈴木亮平の役作りにも注目が集まった。
少女漫画誌『別冊マーガレット』にて連載中の作品であるが、少女漫画とは思えないコミックスカバーに度肝を抜かれる。
可愛い美少女主人公やイケメンではなく、ジャイ○ンにそっくりの男が毎回『俺物語!!』の表紙を飾っているからだ。主人公は女性ではなく、剛田猛男。朝起きるシーンも、猛男から。モノローグもほとんど猛男が中心。エピソードのほとんどは猛男を中心にしたもので構成されている。まさしく「俺物語」なのである。
そのように書いているとまるでイロモノ漫画のようだが、『俺物語!!』は決して珍奇な漫画ではない。むしろ正統派の、純情な恋物語なのだ。
猛男と彼女の大和は、すでに物語序盤で両想いになっている。猛男は可憐な大和に惚れっぱなしだし、大和はゴリラのような猛男を愛してやまない。二人はメールやラインでやり取りを交わし、猛男は大和を見て、ことあるごとに「好きだ」と心のうちでつぶやく。大和は男らしい猛男を見てすぐ頬を赤く染める。
そのお熱い二人を見ていると、読んでいる方もなんだかとても幸せになってくるから不思議だ。これが『俺物語!!』という作品の魅力なのだと筆者は思っている。
ではなぜ、読者はそこまで二人の恋を応援したくなるのだろうか。
なぜ『俺物語!!』は応援したくなる恋なのだろうか
前項でも述べたが、『俺物語!!』は不思議な少女漫画である。
多くの少女漫画は男女の恋愛の過程について描かれるが、正直そこまで惹かれることはない。誰が付き合った、誰と分かれた、そんな話ばかりで、結果的にゴールインしようが浮気されて悲惨な人生を歩もうが「ふーん」ぐらいにしか思わないのだ(ドライですみません)。
おそらくそれは、少女漫画の持つ「キャラクター性の弱さ」にあるのだと思う。
少女漫画は、少年漫画より現実に即した物語をテーマに据えることが多い。学園ものや主人公が中・高校生の漫画がほとんどなのも、おそらくは「共感性」を大事にしているためだ。読者である少女たちが感情移入しやすいよう、あえて没個性的なキャラクターを主人公に置いている。
だが、それだけでは漫画は面白くはならないのだ。少年漫画に比べて少女漫画が日陰の位置にあるのは、「共感性」や「無難さ」を重視しすぎているためだと筆者は思う。どれを読んでも似たような話(もしくは、ちょっと部活モノとして色をつける)ばかりで、わざわざ読もうとすら思わない。
ところが『俺物語!!』は違う。主人公にあえてゴリラのような大男を置き、「これは今までとは違う少女漫画だ」と印象付けた上で、大和との「少女たちが理想とする恋愛模様」を造り上げた。
「奇抜」なキャラを「無難」な話に落とし込んだところで、物語は意外な化学反応を起こしたのである。数多の少女漫画の「無難」な話を読みこんできた読者たちは、「奇抜」な猛男がちゃんと恋物語の舵を切れるかはらはらと見守る。
「ほら猛男、定番の恋のライバルが出現したよ! 乗り切って!」とか、「大和の初チューだよ、どうすんの猛男!? 砂川に相談すんの!?」などと、まるで保護者のような気持ちで、読者は『俺物語!!』を読んでいくのだ。
互いのプラスとプラスがぶつかりあった結果、漫画の面白さは二乗にも三乗にも膨れ上がったのだ。
ギャグとしても秀逸 これは猛男に萌える話だ
物語上、ヒロインは大和ということになるのかもしれないが、ダントツで可愛いのは主人公の猛男だ(少女漫画なのに……)。
「そうか」「好きだ」などと、猛男のちょっと不器用だけど純粋な、大和に対する想いが、物語の随所に挿入される。大和に対してだけではなく、砂川や家族に対しても、猛男は思いやりがあり、とても優しい。とにかく、猛男は気持ちがまっすぐなのだ。猛男が笑っていると、こちらまでニコニコしてしまう。砂川か、砂川姉になった気分である。
男らしいこともそうだが、主人公の猛男が本当に魅力的だから、読者も猛男の恋物語を全力で応援したくなるのだろう。こういった魅力の意味でも、『俺物語!!』なのである。
また、作中挿入されるコメディも面白い。表現力が高く、構図が上手いのだろう。コマのカットでくすりと笑える箇所がたくさんあり、恋物語の良いスパイスになっている。砂川のツッコミもさえわたり、猛男と砂川のやり取りは実に秀逸である(たまに表紙絵や扉絵でネタを仕込んでくるのは笑うから勘弁してほしい)。
蛇足ではあるが、砂川が猛男に対して自分の気持ちをうまく表現できないシーンも妙に可愛い。彼女が出来た男の友達が遊んでくれなくなって、なんだか寂しくなる気持ちだ。友情にしては濃すぎるけど、愛情なわけもない。だけどなんだかもどかしい……。この繊細な砂川のエピソードに、思わず「わかる~」とうんうん唸ってしまう。
『俺物語!!』は、ギャグとしても恋物語としても、実に軽妙で面白い漫画なのである。
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