1巻でお腹いっぱい『深夜食堂』
近所にあったらいいのにな
表紙のタイトル文字とイラストに惹かれて、即買いしたのがこの作品。たこさんウィンナとビールの組み合わせがおいしそう、しかも付け合わせがキャベツの千切りってところがニクい。グルメマンガは多々ありますが、対決ものは好きじゃない。素材や調理方法にこだわりがありすぎるのも好きじゃない。シンプルな料理を、おいしく食べてくれる話が好きなのですが、レジに並んでいる間、まだ中を見てもいないのに「この本はきっと当たり!」と思っていました。
通常メニューが豚汁定食とビール、酒、焼酎しかない。酒は2本(2杯)まで。それ以外の料理は頼まれたときに材料があれば作る、という設定。開店時間は夜中0時から7時までだから、常連客に訳ありっぽい人も多い。うちの近所にこういう店欲しい、つまみでビール2本飲んで帰るってパターンを仕事帰りにやりたいな、なんて妄想が膨れ上がりました。
料理と人の結びつけがうまい
先にも書きましたが、シンプルな料理をおいしく食べてくれるグルメマンガが好きで、深夜食堂の料理はシンプルの最たるものだと思います。タコさんウィンナ、甘い玉子焼き、昨日のカレー、etc。出てくる料理と食べにくる登場人物たちの結びつきが、上手に描かれていて面白いな、と思いました。例えば、まさかタコさんウィンナをやくざが食べにくるとは思わないし、タコさんウィンナをきっかけにやくざと往年のゲイホストが仲良くなるなんて、もっと想像できない。でも、この作品の中で描かれていると「そういうことも、あるかもしれないな」と妙に納得できちゃう。
1話完結で続きが気にならないのもこの作品の良さ。常連客だけでなく一見客も含め、いろいろな人が主人公になって登場しますが、たまに常連客のその後の話がでてくると、その話を読み終わった後に「今度はどんな話で登場するかな」とちょっとだけ楽しみになります。
好きな話はいくつかありますが、特に好きなのは一見客編では第5夜(「話」ではなく「夜」にする、ちょっとした小細工がまたニクイですよね)の『猫まんま』。鰹節のことを「かつぶし」と表現するところが、なんとなくスーパーで売っているお得パックの削り節を想像し、庶民的な感じがします。「(かつぶしを)あったかいごはんにのっけて、おしょうゆかけて食べたいんだけど」という表現もすごくおいしそうで、もし私が店主でも「時間があるならご飯、炊いてあげるよ」と言ってしまいそうです。炊き立てで湯気の立つご飯にかつぶしを乗せて、醤油を垂らしたところで「ゴクッ…」って、1ページで納め切るコマ割りも上手。この回の主人公は病気で死んでしまうのも、短くて薄くてひらひらしているかつぶしとつながっているのかな、と思いました。
常連客編では第8夜「牛すじ大根玉子入り」がお気に入りです。なぜなら、この回に登場するまゆみちゃんが私にそっくりだから、という単純な理由。私もおでん大好きですが、中でも牛すじと大根と玉子がベスト3のおでん種。玉子の黄身をだし汁に溶いてぐびっとやるシーンなんて、すごく共感できます(でも、さすがに店ではやりませんよ、私は)。身体の大きさに対して食べすぎちゃうから太る、痩せたいから食べるのを我慢して、運動もしているのになぜか痩せない、という点も私と同じ。阿部先生、実は私の身近な人なんじゃないの?! と思うくらいそっくりで、愛着がわいちゃいます。なお、後にまゆみちゃんは「ビリー・ザ・ブートキャンプ」ならぬ「ボビーズダイエットジム」で一時ダイエットに成功しますが、私はビリー隊長の地獄の特訓にはついていけなかったです。憧れの君がいなかったからかな。
悩ましのスピンオフ本
スピンオフ本が充実しているのも、グルメマンガならでは。深夜食堂のメニューのレシピ『深夜食堂の勝手口』はあまり興味はわきませんでしたが、『dancyu』とのコラボ本が出たときは「これはずるい!」と思いました。『dancyu』は私の料理バイブルですから。さんざん悩んで、悩んで、悩みぬいて、結局買いませんでした。だってサブタイトルが『~真夜中のいけないレシピ~』ですよ! ますますまゆみちゃん化しちゃう…
構成に疑問が出てきた
2巻の中盤くらいから「こんなにいろんなメニュー、作れるかな」と疑問に思い始めました。深夜食堂には業務用の大きな冷蔵庫があるとは思えず、どちらかというと場末のスナックくらいの厨房しかなさそうなイメージだった。なのに、あり合わせでは作れなさそうな料理が次々登場する。常連客用が必ずリクエストするって分かっている料理ならあり得るかもしれないけれど、たまにくる客が頼んで出せるほど材料保存しておけないんじゃないかしら、と感じたのです。疑問を抱えつつも3巻までは読みましたが、連載を続けていくなかでそもそものコンセプト「豚汁定食以外の料理は、頼まれたときに材料があれば作る」が崩れてしまったのだと思いました。巻を重ねても作画タッチが変わらない、味わいの安定感のある作品なだけにとても残念です。
2巻で疑問を感じたってことは、1巻で充分お腹いっぱいだったんだな、と後でわかりました。やっぱり私は食べすぎ傾向にあるみたい。
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