不可解な事実を、違った角度から見れる快感
不思議な出来事を化学で解明
東野圭吾氏による短編推理小説。ガリレオシリーズの第2弾となり、テレビドラマでも原作として制作されています。
5つの短編集からなりたっている構成で、どの作品も超能力を思わせる不思議な現象から、科学の力をもって、湯川教授が証明してくれるストーリー。人間が不思議な超能力や霊的のような不思議な現象につきあたると、これは科学では解明されない神秘的な現象だと、いかに信じやすく、頼ってしまっているのだなと思います。実は、現実をみるよりも、神秘的な何かにすがる事で、悲しい現実や辛い事から回避しているのかも知れません。実際、湯川教授の科学的な証明で、驚きながら事件を解明していきます。確かに、科学で証明してしまえば、動かぬ証拠となるのですが、科学で証明されればされるほど、なぜか悲しい結末になるのです。殺人のためのトリックや動機、自殺を他殺にするための仕掛けは、トリックが解明する面白さがある反面、人が殺される事のどうしようもない虚しさを感じるのではないでしょうか?もしかして、科学よりも、神秘的な不思議な力として片付けてしまった方が、人間は傷つかなくていいのかも知れませんね。
意外な犯人像
人を殺せば、必ず犯人がいます。推理小説なので、その犯人は誰なのか?がこの本の中心となるわけですが、予想ができず読み進めて行かなければ犯人がわかりません。だいたいこの人じゃないかと、推理していますが、ほとんど犯人を当てる事ができなかったです。
「予知夢」は、意外と思える犯人となっています。だからといって、無理やりに犯人に仕立てるのではなく、納得のいく背景と人物像を用意し、読者をさらに惹きつけます。
第1章の夢想るでは、予知夢ではなく、回りまわって、モリサキレミの母親が犯人だったり、借金とりの犯行と見せかけて実は自殺だったり、自殺と見せかけて実は奥さんの仕業だったりと、意外な犯人として実に巧みに描かれています。推理小説、殺人事件のような作品は、パターン化してしまうので面白みに欠けるのですが、「予知夢」では読者を飽きさせません。
ミステリーとしては面白いが人間味がいまいち
ミステリーとしては、意外性と科学の解明に長けていて面白いのですが、人間の描き方が薄く、実際にいる人物と思える事ができません。短編小説なので、推理や事件に関する説明が多く、人間を描く部分がとても薄くなっているような気がします。例えば、言葉で不倫をしていた、実は何年前にこの人と付き合っていた、愛し合っていたと説明してあっても、説明的な文章は理解できるけれど、読み手には感情として伝わってはこないのです。ですから、登場人物のどの人間にも共感する事ができず、ハラハラドキドキしながらみることも、その心情になって感動し涙を流す事もできませんでした。私は実は推理小説は、あまり好きではないのです。その理由は、こんな所にあるのではないかと、この本を読んで感じました。ストーリーも推理も、とても面白いんですけどね。
文章が硬い気がする
事件が起きたトリックを説明するために仕方ないのかもしれませんが、文章が硬く読みづらいと感じます。新聞記事に近い感じがして、文章にリズムがないので、私は読む時間がかかりました。男性的な文章だと思います。
当然ながら、東野圭吾氏の著書は、とても人気があり好評なので、私の読む力が足りないのかも知れませんが、湯川教授が事件を解明するあたりで、読む速度が遅くなってしまうのです。そもそも科学を文章で説明すると、教科書のようになってしまいますので、地味な文章になってしまうのは当たり前かもしれません。でも、形容詞が少なく独自の文章的な表現に花がないと思います。
人が死ぬまでの経緯
人が死ぬ時の理由ってどういう事なのかを「予知夢」の中に見る事ができます。人が殺されたり、自殺に見せかけるなど、人が死ぬ時の理由は、とても奥深いものがあり、そうでなければいけない気がします。ですから「予知夢」の中の死んで逝った人達は、単に憎まれたから殺されたのではなく、複雑な状況が絡み合っているのです。
現実の中では、人の死や、身近な人との死は、めったに遭遇しません。一生のうちでも数えるほどではないでしょうか?そんな私達に、死ぬとは何か?死ぬ意味、死ぬ理由など、現実では中々体験できないことを、読むことによって感じる事ができます。いつか、そんな死に対して直面した時のクッションになればと思います。
最後の終わり方が意味深い
推理小説が苦手な私なのですが、「予知夢」で一番面白いと感じた部分が、第5章の終り方です。小説の最後の章となるこの章らしく、余韻を残した、とっても良い終わり方でした。
今までの、不思議な出来事を化学で証明し、肯定していくストーリーを、もしかしたら不思議な現象や予知能力は、存在するかも知れないと、という感じで物語全体を締めています。
小説とは、架空の出来事を連ねた物語ですが、そこに作家の主張が入ってきます。それは、強い気持ちや心が入っているのですが、読み手にとっては、そんなに人の意見を押し付けられても、イヤになってしまう時があるのです。それを「予知夢」では、少女は本当は超能力があるという、描き方から今までの主張をもう一度、考え直す事ができ、より広い可能性を感じる事ができました。とても、心地よいラストでした。
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