野火、胡蝶の夢
極限状態に追い込まれた人間は、周囲の世界をデフォルメして捉える戦争。それは、人間を極限状態に追い込む。「野火」は、敗色が誰の目にも明らかになった太平洋戦争末期の、南方戦線が舞台である。主人公の一等兵は、持病がある上に、長引く戦闘、連日の強行軍で身体を病んでいる。故に、上官である分隊長に離脱を命じられる。彼が置かれた軍人としての状態。それは、自決用の手榴弾を除くと、戦闘に必須な弾薬さえ、満足な数を持たされていない。食糧、医薬品。全てが極度に不足している。その様な、絶望的なものだった。野戦病院へ向かうところから、彼の彷徨が始まる。人間は、肉体の制約のもとで、精神に依って世界を捉え、行動する。この状態を、悟性と称することが多い。悟性が、人間を人間足らしめると言われることもある。しかし、肉体的に極限状態に置かれた人間は、肉体と精神の分離、両者のアンバランスを経験するようになる。ここに、悟性は撲...この感想を読む
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