何故『東京喰種』は人気が出たのか
アニメ化した作品『東京喰種』の難点
人気が出る作品には、それなりの理由がある。『東京喰種』はアニメ、舞台化し、ファンも多いことで知られる漫画だ。当然、相応の面白さがあるが故に人気が出ていると推測できる。
しかし、『東京喰種』はストーリー、設定、画力ともに、そこまで飛びぬけた魅力を持つ作品ではない。
まず画力。人物のデッサンに難があり、表情や顔のパーツなどが安定しない。同じ漫画の同じキャラのはずなのだが、作画が安定しないせいで誰が誰かわからなくなることが多々あり、特に女性キャラの描き分けがはっきりしない。
迫力ある顔やポーズはかけているのだが、バトルシーンの画面はごちゃごちゃとして見づらい。なぜかカバーイラストだけが突出してキレイで、カバーに惹かれて手に取ってみるとがっかりすることになる。
次にストーリー。人間社会に潜む異なる存在ーー特に食人種を描く作品は多く、『東京喰種』のストーリーに目新しさを感じることはないだろう。食人種を主役に据えた漫画で代表的なのが『寄生獣』で、『東京喰種』がたびたび、この作品と比較されるのを目にする。人間対食人種、人間でありながら人間ではない存在に転化した主人公の苦悩を描いている点も、既存の作品と類似するといえるだろう。
最後に設定。これが、もっとも『東京喰種』の厄介なところだ。
まず、登場キャラクターがかなり多い。主人公・カネキが身を寄せる『あんていく』の面々や、敵役たるCCG、アオギリの樹のメンバーなど、物語に深く関わっているメンバーだけでも相当な人数になる。しかも、ほとんどが死んだり行方不明になることはなく、いわゆる「リタリア」することがないので、物語から退場することなくストーリー上に居残る。一回読んだだけでは、人間関係や伏線がまず読み込めない。それぞれの立場や思惑、所持するクインケや赫子などを読み測ろうと思ったら更に大変である。これでは読者の立場に立っているとは到底思えず、設定だけで読むのを諦める”読まず嫌い”を増やす原因になってしまう。
以上のように『東京喰種』には様々な難があり、人気作品だからといって手に取ると少々がっかりすることになる。初見の人はまず一度試し読みしてみて、ハマりそうだったら買ってみる、ぐらいの措置を取ったほうが無難かもしれない。
厨二病とキャラ人気に引っ張られた感は否めないのか
しかしながら、事実として『東京喰種』は人気作品として『ヤングジャンプ』をけん引している。これはなぜであろうか。
まず理由の一つとしてあるのは、『東京喰種』はコアなファンのツボを突くことに長けている点だ。
多すぎる登場人物も設定過多も、決してスマートではないにしろ、好きな人たちにはたまらなく魅力的に映るだろう。特にアニメを視聴した若い世代、中高生がハマりやすい素材といえる。
また、キャラたちは総じて個性豊かで、他の漫画にはなかなかいないキャラばかりだ。いかにもパンクファッションが好きな人向けのビジュアルのキャラが多いのも特徴といえるだろう。
そもそも漫画やアニメにはそれぞれターゲット層というものがある。大人にとってはありきたりな漫画が、若い世代には新鮮に映るということも多々あるだろう。
『東京喰種』はまさにその中高生向きの作品といえる。たくさんのキャラクター、それぞれの思惑に戦闘。これらを好むメインのターゲットである中高生が、『東京喰種』を存分に楽しむことが出来れば、ターゲット層から外れた大人が口を挟むことではない。
無理して万人向けを狙うより、むしろ好きな人が好きでいられる作品であり続けた方が、人気も連載も持続するだろう。そういった意味で、『東京喰種』は確かに人気作品なのである。
読み手を選ばないキャラの魅力
前項、前々項で散々酷評ばかりを述べてきたが、『東京喰種』には卓越した魅力があるのは確かだ。
前項で少しだけ触れたが、『東京喰種』でもっとも優れているのは魅力あるキャラクターたちだ。『東京喰種』は中高生ウケしやすい作品と述べたが、キャラクターに関しては年齢問わず様々な人の心を掴んでいるだろう。
まず、おっさんキャラがいい味を出している。普通の漫画では脇に弾かれがちな彼らは、喰種もCCGも年功の通りの強さを持っており、一度戦場に立つと頼もしいことこの上ない。いわゆる噛ませ犬や捨てキャラでないことも好感が持てる。
次に月山やナキといった、敵キャラが非常に個性豊かであること。『東京喰種』における敵キャラはいずれも変人が多く、奇行が目立つが、慣れてくると不思議と奇行が愛嬌のように思えて馴染んでしまう。特にコミックスおまけの月山やナキ、鯱はギャグキャラと化しており、血なまぐさく陰鬱な本編に彩を添えている。
だが、こうしたキャラひとりひとりについた個性は、前述したように物語そのものを圧迫してしまう。”リタイア”しないのなら猶更だ。
今後も、『東京喰種』は更なるメディア展開を遂げるのであろうが、名作と評されるにはまだまだ課題が多い。
以後、物語が続くにつれ、これら難点が少しずつ片付くことを期待したい。
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