腐敗物だらけの人生の中の一瞬の輝き
私はこの作品を観るまで邦画の良さがイマイチわかりませんでした。それまで洋画のような派手でわかりやすいものが好きでしたが、この作品は邦画の良さというものが全て詰め込まれててとても質の高い作品に仕上がっていると思います。
まず主人公の森山未来さんがゴミのような姿で女遊びをして挙げ句はゲロを吐くという汚いにも程がある場面から話が始まります。しかしここで山下監督が上手いなと思うのはこの最初の場面で主人公のカンタがどんな人間であるのか視聴者側に一瞬で把握させるところです。
カンタは中卒で人足をやっていてお金にも女にもだらしないどうしようもない人間です。そんな人間が仕事を通して友達を、唯一マトモな趣味といえる読書を通じて好きな女の子を作る。そして彼のどうしようもない人生の中で一瞬だけ輝いた青春を私達が観る。この構図は流石山下監督だな、と思わざるを得ませんでした。
さらに、役者陣がとても良かったことも作品の質の高さに繋がっていると思います。主人公の森山未来さんは見事にゴミクズでありながらどこか憎めない青年を演じていました。友人役の高良さんもカンタと友達になりお金まで貸してくれる広い心を持ちながら普通の学生であることを忘れさせない見事な演技を見せてくれました。また、カンタが好きになった女の子、康子役を演じた前田敦子さんもとても良かったです。AKBは一般的位には聴くし、前田敦子さん自体も好きでも嫌いでもない、という感じだったのですが、これで一気に前田敦子という女優のファンになりました。何故彼女があんなに人気を誇り、それと同時に多くの人から批判を受けていたのかわかった気がします。
前田敦子さんの魅力の一つに「自然体」が挙げられると思います。特別演技が上手いわけでもない、だからこそだせるそのままの状態。これができる役者さんはあまりいないと思います。
私が邦画をあまり好まなかったのはどうしても役者が無理矢理演じている感が否めなかったからです。そのせいで上手く話に入り込むことが出来ませんでした。しかしこの映画の役者陣は皆自然体で、すぐに作品に入り込むことができました。
話を戻しますが、この作品での康子という役は少し浮いた存在です。しかし、前田敦子さんはそれを見事に、自然体で演じていました。浮いている康子を普通にいる女の子として演じることはなかなか難しいことだと思いますが、「こんな女の子いたよね」という説得力を持たせる見事な演技でした。
また、彼女の魅力は様々な表情を見せてくれて良い意味でも悪い意味でも観てるこちらを飽きさせないことだと思います。カンタ達と話している時の顔や、本屋でアルバイトしている時の顔等は普通にいるそこそこ可愛い女の子の顔なのですが、DVDのジャケットに載ってる康子のあの笑顔、もとい映画の一番の見せ所であるワンシーンの顔が特別可愛かったです。あの表情をあの場面で出来る人はなかなかいないと思います。あそこだけでも彼女を起用しただけはあったのではないでしょうか。
映画鑑賞後原作も読みましたが、原作も非常に良かったです。しかし、やはり文学作品ですので映画も原作も万人受けする話ではないと思います。観る人を選ぶ作品ではあると思いますがこれは人生で一度は観とくべき作品ではないかと思いました。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)