いつか眠りにつく前に(原題:the evening)
原作との相違
私はこの映画を観てから原作を読んだのだが、大きく違っていた。
まず、映画ではバディは主人公にもハリスにも恋愛感情をみせるが、原作ではどちらともに特別な感情はないように思われる。
つまり、原作では映画ほど、バディが主人公達を巻き込んだりもしないし、バディの死は物語の中心にはならない。
映画では大事なバディという役柄が原作ではそこまで重きを置いていない、という点が、原作を読んだことで映画に対してのがっかり感を生んでしまった。
ということで脚本の評価は低めだ。
キャストの配役
キャストは大女優メリルストリープを中心に個性的な俳優陣で構成されている。
ここで驚く点が一つある。それは年老いたライラをメリルストリープが演じているのはすぐ分かることだが、なんと若き日のライラはメリルストリープの実娘であるメイミーガマーが演じているのだ!
その事実を知ったことで、過去と現在を行ったり来たりするこの映画がなめらかに一続きになったような気がするのだ。
また、年老いたアンと、その娘コンスタンスについても実の親子が演じている。
コンスタンスがアンに対して、「私が小さい頃、ママは仕事が忙しかったわよね」なんて言うシーンがあるが、なんとも寂しい表情がリアルなのだ。
メリルストリープやバネッサレッドクレイブというベテラン女優陣が実の娘達と競演している、という興味深い点もあり、キャストの評価は高めだ。
一定の静かな雰囲気
最初の、主人公が船の上に横たわって波に揺られているシーン、そして静かな音色の音楽、そのオープニングでこの映画は一貫してこの雰囲気で進んでいくのだと直感した。
アンとバディが昼間から楽しそうにダンスするシーンを除いては、暗い音楽である。
この映画は何回も見ているが、落ち込んでいるときに見るとなんとも気が滅入るのだ。しかし、フラットな気分な時に観ると、人生を考え直す良いきっかけになるのだ。
ハリスに一生に一度の恋をするアン、しかしバディの死という大きな出来事から叶わぬ恋を自身が死ぬ直前まで引きずることになる。この出来事は、前にも述べたように原作では重きを置いていない。原作ではなんとハリスはそこまでアンに夢中ではなかった、つまりひと夏の恋程度にしか考えてなかったから、という理由で二人の恋は幕を閉じているのだ!!(私は最初に映画を観たので、二人の純愛が羨ましいと思っていたのに、、、なんということなのか!)
まあ、理由はどうであれ、主人公たちの恋は終わることに変わりはない。そういう点や、バディの死という重い出来事からできている映画なので、暗い気分の時に観るべきものではない。
人生を考え直す時に観るべきだと思う理由には以下の理由がある。
ほとんどすべての役柄の人生が上手くいかないのだ。そう、なおさら暗い時に観るべきではない。しかし、私達の人生も基本うまくいかないことの方が多い。だからこそ自分の人生を見つめ直し、そして上手くいかないながらも人生を歩んでいく各役柄から勇気をもらえるのだ!
ライラは結婚できた。しかし望まぬ人との結婚、、、彼女は晩年になってもハリスを忘れられていない、しかし夫が死ぬまで寄り添ったことを主人公に語っている。そしてその左手の薬指には結婚指輪が、、、。私はこの結婚指輪を見たときに彼女の芯の通った性格を感じ取ることができた。
ハリスはアントの恋は叶わなかった。しかし、数年後再会すると、なんと妻子持ちなのだ!そして、さらに時は経て、主人公とライラが語らうシーンでは、ハリスは地元に帰って医者になって人々のために生きているという。幼い頃からの医者という夢を叶えたのだ。
そして主人公のアンというと、バツ2になっている。ハリスとのきらびやかな恋愛なんて遠い昔の話、夫とうまくいかない中で二人の子育てをする日々、そして末期の病に倒れて自分の人生が長くはないことを悟る晩年。
しかし、ライラとの会話(メリルストリープとバネッサレッドクレイブが同じスクリーンにいるということがすばらしい!)で自分の人生をやっと肯定することができた。バネッサレッドクレイブ演じる晩年のアンは、この時ばかりは病から来る心の痛みや体の痛みからも解放されたすがすぐしい表情になるのだ。あの表情を作ることができる名優バネッサレッドクレイブはさすがだ。
原作ではライラとハリスはもっと幸せそうな人生を送っている。脚本家がなぜ主要人物を不幸にさせる脚本を書いたのかはわからないが、結果的にはみんな上手く行く方向にうまくまとまっている。
個人的には原作のように、幸せな人物はそのまま幸せなままでいい気もするが、、、とおもうときもあるが。その方が、人生の不平等さを表しており、よりリアルだから。
きゃくほんにケチをつけた割には何回も観ている映画。それは何回も述べる通り豪華な俳優陣の競演を観る事が出来たり、人生を改めて俯瞰で考え直すきっかけ担っているからだと思う。
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