アウシュヴィッツについて近くからも、遠くからも眺めることができる物語
時は第2次世界大戦中。パリに住むユダヤ人の少女サラの物語。当時、すでにパリでもユダヤ人には服に大きな星をつけさせられるようになっていた。ある日の早朝、フランス警察が家に押しかけてくる。フランスの警察だから大丈夫。でも、何かがおかしい。とっさにサラは、幼い弟を納戸の奥の秘密の空間に身を隠させて鍵をかける。「あとでもどってきて出してあげるからね。絶対に」鍵をこっそり隠し持ったまま連行されるサラ。
一方、現代のパリ。アメリカ人女性のジュリアの物語。フランス人の夫との間に娘が一人いるジャーナリスト。彼女はある時、ヴェルディブについて特集記事を書くことになる。ヴェルディブ、それは過去にユダヤ人がまず最初に連行された屋内競技場。
ユダヤ人だからというだけでどうして酷い扱いをうけるのかと嘆きながらも、弟の身を案じ続ける少女サラ。ジュリアがヴェルディブを深く調べていくうちに明かされていく真実。そして、サラの弟の運命。サラ自身の運命。織物の縦糸と横糸が折り重ねられるように全てが次第に見えてくる。
ハンサムで優しいと周囲もうらやむような夫との微妙な関係、思春期を迎えた娘との関係、夫の家族との関係に思案しつつも仕事をこなすジュリア。現代の普通の女性が抱える不安を持つジュリアが過去の事実を明かしていくからこそ、彼女が背負う罪悪感が読んでいる私達のものとなる。人間が引き起こした絶対に許されることの無い過去。それを目の前に暴かれたようで罪悪感で苦しくなるのだけれど、読み終えた後、彼女達の強さが余韻として胸に残る。
作者のタチアナ・ド・ロネはパリ生まれだが、パリとボストンで育っている。その後、パリへ戻ってジャーナリスト、作家となる。その為、外国人が異国で暮らしたり仕事をしたりする中でのちょっとした苦労の記述がとても現実味があり、よりリアリティを感じさせる。タチアナに「ジュリアはあなたですか?」と尋ねられることもあるらしく、この物語は史実に基づいたフィクションであると記している。英語の原書では、読んだ生徒が考察できるようなあとがきがついている。
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