夭折の傑作『サムライうさぎ』
可愛い妻と堅物な下級武士の心温まる話
『サムライうさぎ』は、週刊少年ジャンプで2007年14号から連載されていた漫画だ。
主人公が既婚者で、かつ歴史ものということで、ジャンプ誌上においては珍しい連載作だったといえるだろう。
そもそも、若年層向けの漫画や小説(ライトノベル)やアニメで歴史モノはウケない、とされている。
小中高のライト層にとって、武士の魂がどうの~とか幕府がどうの~とか言われても、ピンとこないことが原因だろう。それは決して読者の理解力がどうこうという訳ではなく、単純にそこまで理解するのがめんどくさいのだ。漫画はあくまで娯楽であり、時代考察や歴史考察をしてまで読みこむのは、よほど好きな作品か、もしくは作者が時代・歴史設定に大きなこだわりを持っていると思われる作品だけだ。
しかしながら、『サムライうさぎ』は時代設定を差し置いて、夫婦感の心温まるやり取りを描いた作品であり、それが読者にも好評を得ていた。
普通の少年漫画では、主人公の恋愛を描くことはあっても、せいぜい彼氏・彼女の関係どまりで、その先は描かれない。
だが『サムライうさぎ』は、最初から主人公とヒロインを夫婦という設定にしておいて、恋愛の過程をすっ飛ばして夫婦の絆であったり家族の信頼関係をコンセプトとして据えている。一見鈍くさそうな妻・志乃が伍助のために一生懸命家事をこなしたり、内職をする姿は、とても癒される。また伍助が志乃を気遣う姿も初々しくて、なんだか読んでいる方もほっこりした気持ちになれる漫画であった。
デフォルメされた画も、夫婦という設定も、時代背景も、決して万人ウケするものとは到底言い難かった。
だが、『サムライうさぎ』は独自の魅力で読者に支持され、ジャンプの人気作となれる実力を持っていた。が。
ハートフル路線を台無しにしたのは誰か
先にも述べたように、『サムライうさぎ』は間違いなく良作の資質を持っていた。
だから、なぜバトル展開にしたのか。本当にこれは残念でたまらない。筆者は正直戦犯をつるし上げたい思いでいっぱいだ。
編集者か作者か、誰がそう仕向けたのかはわからないが、『サムライうさぎ』の魅力・持ち味をわかっていないと言わざるを得ない。
『サムライうさぎ』はハートフル路線がウケていて、確実にそれが好きで読んでいた人も多かったはずなのに、作画に見合っていない突然のバトル展開にされてしまった。バトル展開になれば非戦力の妻の志乃の出番はおのずとなくなり、志乃と伍助の心温まるやり取りが好きだった『サムライうさぎ』のファンは落胆して読むのをやめてしまった。
何故作品の魅力を削るような真似をしたのか、ジャンプ編集部と仕掛けた本人はおおいに反省してもらいたい。一つの良作を打ち切りへ追いやることは、作者とファンとコミックス売り上げという、大事なもの全てを奪っていくことに他ならず、結果として損しか残らないのだ。
足を引っ張られてなお輝く魅力
だが、持ち味を失うことになっても、『サムライうさぎ』の全てが損なわれた訳ではなかった。
特に講武館での流人一行との試合において、対戦相手・スズメを囃し立てる侍たちに対するマロの一喝は、見るものを感動させた名シーンである。
本来の土俵ではないバトルメインの展開となっても、『サムライうさぎ』らしさは失われてはいなかった。言い換えれば、作風にそぐわない路線変更をすることになってもなお、作者が『サムライうさぎ』を盛り立てようという意識が強くあったともいえる。作者の気持ちと、残念な結果を鑑みると、一層悲壮感が覚えてしまう。
また、打ち切りであっても作者がきちんと一人一人のキャラの結末を描ききったこと、また連載終了後に掲載された読み切りで、伍助と志乃の子供・ミツキの話を描いてファンの要望に応えたのは、賞賛に値する。
作者の今後の可能性は
結果は打ち切りという残念な結果に終わってしまったが、何度も述べているように『サムライうさぎ』は良作である。当時ジャンプを読んでいたファンにも愛され、バトルものへの路線変更がなければもっと刊行数も増えていたことだろう。
作者・福島鉄平は、多数の読み切り作品を雑誌に掲載させている。読み切りが多いということは、それだけネタを練る力があり、短いページの中で起承(転)結を納める実力を持っているということだ。つまり、短編、あるいは短編連作でこそ、福島鉄平の才能が開花されるのではないか、と筆者は思う。
これだけファンに愛される作品を描いた作者だけに、これで終わってしまうのはあまりにも惜しい。
叶うならば、『サムライうさぎ』の復刻連載を願いたいばかりだ。幸いにして今のジャンプには、WEB掲載ではあるが旧作を復刻させようという流れが来ている。今現在は、昔の掲載分をそのままUPしているだけだが、ニーズが高まれば復刻連載する可能性もあるかもしれない。
そのとき、復刻候補作として『サムライうさぎ』の名が挙がることを、筆者は期待している。
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