ギネス認定の少女漫画『フルーツバスケット』
少女漫画屈指の名作『フルーツバスケット』
『フルーツバスケット』は、少女漫画誌『花とゆめ』に連載されていた漫画である。
同時期には『闇の末裔』『スキップビート』『花ざかりの君たちへ』が連載されており、ティーン向けの少女漫画誌としてはかなり人気があった。
中高生をメインターゲットにしていることもあり、小学生向けの少女漫画誌に比べ様々なテーマ・内容の連載漫画がある『花とゆめ』だが、そのなかでも『フルーツバスケット』は屈指の人気を誇っていた。
それは少女漫画でありながら1600万部を売り上げ、もっとも売れた少女漫画としてギネスブックに載ったことからも証明されている。
刊行数に違わず、『フルーツバスケット』を屈指の名作と考える人も多い。少女漫画という枠組みを超え、漫画全体の中でも『フルーツバスケット』は名作の誉れが高く、人生に影響を与えた作品とまで公言する人もいるほどだ。
では、『フルーツバスケット』の一体何が名作たらしめているのか、考察していこう。
透くんは、人が一番言って欲しい言葉をくれる主人公
『フルーツバスケット』は魅力的な登場人物が多い。十二支憑きをメインとする草摩家の面々や主人公・透の親友たちはそれぞれ個性的で、しかも他の漫画ではあまり見かけないオリジナティー豊かなキャラクターばかりだ。
特に潑春や綾女、律といった草摩家十二支憑き男性陣が凄まじい。特に律と律の母は一体どういった発想で生まれてくるのか問いたいぐらいだ。
しかし、一番取り上げなくてはならないのが、主人公の本田透だろう。
ひょんなことから草摩家と関わりを持ち、十二支の呪いを知ることになるという典型的な「巻き込まれ型」主人公だが、透はそこらの受動的主人公とは一線を画す。
まず、とんでもない天然ボケである。天然キャラは漫画上では扱いが難しく、しかも主人公となれば、下手をすると読者の反感を買いやすい。だが、透は持ち前の逞しさと不遇な身の上で、読者のヘイトを回避している。
そのうえで中盤になってくると、今度は読者が透を好きになる番になってしまう。
具体的にいえば、紅葉や杞紗のエピソードだ。
母親に拒絶された過去を、透に打ち明ける紅葉。辛い思いをしているのに、「忘れていい思い出なんてひとつも無いって、 思いたいから」と自分なりの答えを告げた紅葉を、透は泣きながら抱きしめる。紅葉の諦観にも似た達観、そこに眠る孤独と苦しみを、紅葉に共感した読者も含めて、透は優しく肯定してくれる。
また、いじめられ、学校に行かなくなった杞紗に、杞紗の母親が何故かと問い詰めるシーン。
寅になったまま黙して答えない杞紗のかわりに、透が告げる。「お母さんが大好きだから、知られたくなかったんですよ」。この言葉に杞紗と、杞紗の母親は涙し、親子が確執を解く足掛かりになった。
説得や仲裁ではなく、きちんと自分の言葉で杞紗の代弁をした透の言葉は、何よりも説得力があり、読者を感動させた。
「どうしてお前は、そうやって、今一番欲しい言葉をくれるんだろう。 どうして、お前みたいな奴が、俺の傍にいて、泣いてくれるんだろう…… どうして……」とは夾のセリフだが、読者も全く同じことを透に思ったことだろう。
これらのエピソードを通じて、読者は主人公・透を本当に好きになっている。透くんのやさしさは物語を超え、読んでいる読者をも癒してくれるのだ。
コメディの才能もある万能作者だが、作画劣化が惜しい
このようにハートフルなシーンの数々が人気を呼ぶ『フルーツバスケット』だが、コメディとしての魅力もあるのを忘れていけない。
特に綾女、律あたりが暴走されると大変面白いことになる。かつて、修学旅行で歓楽街に出かけた男性生徒たちに対する生徒会長・綾女のフォロー辺りは、作者のセンスが最高に光っている(こればかりは文章では面白さは伝えられないので、興味を持った方は読んでいただきたい)。
だが、惜しいことにある時期を過ぎたあとから高屋奈月の画力が落ちてしまう。コミックス柱の作者コメントによれば「手を怪我してしまった」とのことで、仕方のないことではあるが、本当に残念に思っている。
『フルーツバスケット』はキャラの心情を表情で伝えるのが上手かっただけに、作画の劣化は作品の質そのものの低下に繋がってしまった。怪我からの復帰以降はキャラの線が太くなり、表現がやや過剰に見えてしまい、『フルーツバスケット』を見る気が薄れてしまった覚えがある。
しかしながら、『フルーツバスケット』が名作であることに違いはない。それは刊行数からも、メディアミックスされにくい少女漫画においてアニメ、舞台と様々な展開をしていることからも明らかだ。
作品はもう完結されてしまって長いが、花とゆめONLINEで2015年9月から『フルーツバスケット another』が連載されているという。これを機に、また見返してみようという気分になった。
名作とは、得てしてそういうものなのかもしれない。
また、透くんに会いたくなってしまった。
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