"最低"の主人公。故に魅力的。 - 喧嘩商売の感想

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喧嘩商売

4.504.50
画力
2.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.00
設定
3.50
演出
5.00
感想数
1
読んだ人
4

"最低"の主人公。故に魅力的。

4.54.5
画力
2.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
5.0

ルールの存在しない"喧嘩"をテーマとしつつ、そこに格闘技を本格的に介在させた漫画は決して多くない。板垣恵介の『バキ』、森恒二『ホーリーランド』・・・いわゆる不良モノやファンタジーを除いて考えると数えるほどではないだろうか。

そんな中でも木多康昭の『喧嘩商売』は異彩を放っている。何しろ、仮にも主人公である佐藤十兵衛からして、対戦相手の顔に催涙スプレーは撒くわ、目に指は入れるわ、他流派の奥義はパクるわ・・・やりたい放題である。現在連載中の続編に至っては回転ドアに人の指を挟んで遊んでいる。大した悪党ぶりである。ここまでアウトローの主人公を僕は見たことがない。しかし、今巷に溢れているような、お行儀よく肉体をぶつけ合うだけの喧嘩マンガ、それこそ十兵衛に言わせれば「喧嘩がヘタすぎる」のである!初めての、口約束でない文字通り本物の「ルール無用」のマンガに格闘マンガシーンは俄かに沸いた。

連載以来、一気に『幕張』以来の木多の代表作となった本作。いったい何が我々の心を捉えて離さないのか。

ここで僕は「後出しジャンケンの無さ」を激しく推したい。

いわゆる能力バトル物に対して言うつもりはさらさら無いが、リアル志向の格闘マンガで出た瞬間に盛り上がっていたテンションが氷点下まで下がる演出がある。いわゆる「後出しジャンケン」である。満身創痍、限界の主人公。一度も語られることの無かった、主人公の隠された能力が明らかになる!急激に覚醒するスピードと動体視力、敵の攻撃はすべて空を切る・・・!

アホか!!!!!!!!!!!

お前めちゃめちゃ疲れてたやんけ!というかそんなものがあるなら早く出せよ。能力モノには仕方ないことだと諦めはついているが、リアル志向でそんなものを見せられてはたまったものではない。ここまで極端でないにせよ、みんな後出しジャンケンには飽き飽きしているのだ。

喧嘩商売にはそれがない。主人公の持つ武器も、対戦者の持つ武器も読者に明示(もしくは暗示)した上で、あくまでその範囲内でバトルを行うのだ。なのに予想がつかない!ここが最大の魅力なのだ。

十兵衛が金剛、煉獄、無極を持つことは事前に示されているし、金田の魔人薬が数分おきに発動することも読者には明確に示されている。しかしそこまで。互いが互いの武器をどのように破るかは、読者がその戦況から予測するしかない。

そして我々をバトルに引き込むのに大きな役割を果たすのが、人物の行動理由を解説する「地の文」である。

敵が時間稼ぎを目的にしゃべり続けるのを黙って聞き続ける主人公。「何でさっさと攻撃しないんだよ!!」と思った経験はないだろうか(僕はヒーロー物の変身シーンは毎回思ってしまう)

本作はその理由も読者が納得できるように明確に示される。「一つと限定することで会話させる確率を上げる」「橋口は自分でも知らないうちに休憩を選ぶ」全てを十兵衛による戦略の中で語ることで、バトルに緊張感が生まれ続けるのだ。そこには、最近のガンダムのようなナヨナヨと正義感を打ち合うただの「おしゃべり」は存在しない。

そう、予想を裏切られつつも確実に我々は本作に「納得」させられ続けているのだ。「そうきたか~!でも確かに判断できるラインではあったな、悔しい!」そんなもん予想もクソも分かるかよ、とならないのが重要なのだ。

無駄な間延びのない緊迫感、十兵衛の策の意外性、何をするか、されるか分からない本来の意味でのルール無用。

こんなマンガ、面白くないわけがあるか!? 

そう、格闘マンガとしては文句なく今一番面白いだろう!!

だから木多!!

もうちょっと本誌に載っけてくれよ!!!

頼むから!!!!

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