トラウマ作品 - 蛇にピアスの感想

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蛇にピアス

3.063.06
文章力
3.43
ストーリー
2.86
キャラクター
3.21
設定
3.07
演出
3.00
感想数
8
読んだ人
15

トラウマ作品

3.53.5
文章力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
2.5
設定
3.5
演出
3.0

目次

芥川賞受賞作品

もはや映画の印象の方が強いという人の方が多いのではないかと思いますが、私はこの小説を初めて手にしたのが中学三年の時で、幼さもあってか衝撃的でした。

リアルタイムでその作品の迫力に圧倒され、世界観に飲み込まれ、作者の金原さんは一体どういう人生を歩んだら、こんなに残忍な描写が書けるのか、好奇心の次に恐怖が生まれたのを覚えています。

グロテスクで、アンダーグラウンドで、じっくりと読むことはできませんでした。ほとんど速読で、内容は理解しているのだけれど、なるべく感情移入しないように気をつけました。高校生ともなれば受け止める許容も身についているだろうから読んでも差し支えないと思いますが、私は今でもラストにかけての暴力シーンは、言葉の一つ一つを丁寧に読むことができません。

現代の芥川賞らしい作品だな、と今ではすばる新人賞、芥川賞と受賞しただけのクオリティーを理解できるまでになりました。

スルメではない

スルメは、噛めば噛むほど味が出ることから、何度も繰り返すことによって味わい深く解釈ができるというたとえでよく使われます。しかし、この「蛇にピアス」という作品は決してスルメではない。少なくとも、私はそう思います。きっと自分の想像力のせいだと思いますが、私はいつも小説の世界観に影響を受けすぎて、なかなか現実の世界に意識を戻すことができないタイプの人間なので、これほどまでにインパクトのある作品は、例えるならばくさやのようなもので、癖になるという人もいれば、一度チャレンジして二度目はないと拒否する人もいる、ということで、決して私の意見が大衆意見だというわけではありません。

私は好みではない、という個人的な意見だということ。それと、軽いトラウマにでもなっているんだと思います。中学校三年生で、色恋沙汰にも縁がなく、平々凡々とのんびり過ごしていた田舎っぺには、あまりにもかけ離れた世界で、そういう世界もこの世の中にあるのだと自分で自分の恐怖心を煽ってしまったのだろうと思います。

何が正しかったのだろう

スプリットタンって知ってる?

軽快に声をかける青年、アマ。彫師のシバ。そして、ルイ。

私は一生をこの人たちとは交わらずに終わるのだろうというほど、彼らは私の実生活とかけ離れた場所で生きています。深夜のクラブで踊ることも、ピアスを開けることも、刺青も、憧れはしても怖くてその世界に飛び込むことはできませんでした。せいぜい煙草を吸うくらいは悪ぶりたいと思っても、実際は二十歳を超えてから吸うほどヘタレな人間なので、身体改造は生まれ変わるような転機がなければ実現しないでしょう。

アマはルイと同棲をしますが、アマは死んでしまいます。正確にいうと殺されてしまいます。そんなアマは人ひとりを殺しています。因果応報、と片付けるには簡単な結末ではなく、また、十数年経った今でも忘れられない描写が私の記憶で鈍く光っています。鈍器のような光沢に、反射させる光でさえ身を切られそうなほど、残忍な表現でアマは死体になります。

手足すべての爪を剥がされる。どうでしょうね。深爪でさえ痛いのに、それを全て剥がされ、耐えるということは。想像しようとする思考を止めたいと思っても、すっと入り込む文章のせいで止められません。作者を憎みます。

体には無数の煙草を押し付けられた跡。揚げ物料理でよく油がはねますが、その一瞬でさえ熱くて痛いのに、肌が焼ける感覚というのは、いったいどれほどの苦痛なのだろう、と思っても、知りたくありません。

ペニスにお香が刺さっている。私は女なのでよくわかりませんが、屈辱や侮辱のような意味が込められているのではないかと考察します。けれど、性器にそのようなことをするという描写で、アマという青年が、生身の人間が、まるでおもちゃのように扱われていると感じ、そこで言いようのない嫌悪感が湧いたのは昨日のことのように思い出せます。悪い癖ですが、自分に置き換えて考えてしまい、想像が感覚となって身体を巡るものだから、実際にはされていないのに、疑似体験を思い切りしてしまったように錯覚し、嫌悪感が増したのだと思います。

シバがアマを殺した、とはっきりと作者は描いていないのですが、読み深めていくとポイントポイントで匂わす文章があるようです。私はさっさと本を閉じたかったので犯人探しはしませんでしたが、ただ、人間を傷つけ殺すことに快楽を感じる人間がいるという事実に怒りと恐怖心が湧きます。偽善ぶるわけではありません。私だって人を憎んだりすることはあります。もし、自分の大切な人の命を奪われたら、私も犯人に対して上記のような拷問を永遠と続け、死なないように苦しみをじわりじわりと味あわせ、いたぶってから息の根を止めるでしょう。けれど、けれど、なんです。

そこまで継続する憎しみを抱けるか、肉を裂き、苦しみに顔を歪める姿を見て喜べるか。

今だからこそ思います。

どうしたら、彼らを救うことができたんだろうと。お腹の中から育て直したら、表の世界で平凡に生きる人間になるんだろうか。

そうとも限らない。

子育てしながら、我が子の将来を不安に思う時があります。

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