まるで写真を並べたかのよう
とにかく映像の美しさが目を引く作品です。吉原という粋と雅、そして欲望の世界を、色彩や小道具で華やかに、鮮やかに、どこか恐ろしげに映し出しています。その辺り、さすが写真家として一線で活躍する監督さんが手掛けただけのことはあると見入ってしまいます。子どものきよ葉が、『女』になる恐ろしさに逃げ出したくなる気持ちがなんだかわかるような、美しさと怖さを併せ持った映像です。 また、随所に効果的に使われている金魚も素敵でした。美しい姿で人の目を楽しませるために存在し、生きる世界は囲われた鉢の中だけという遊女の象徴としては、うまい演出だと思います。 一方で、ストーリー展開はいまいちでした。原作を知らないので、比較はできませんが、映画だけ見ていると、1つ1つのエピソードが細切れで、ラストまでつながる流れが感じられません。そのせいか、命がけの足抜けをしてまで連れ添いたいと2人がなぜ思ったのか、納得がいかない感じです。特に廓のしきたりを骨の髄まで知り尽くしているはずの清次が、あんな形で逃げ出そうと思うのは、よほどの覚悟がいったはずなのに、そこまでの思いを抱いていく過程が描かれていないのが残念です。ちょっといいなと思ってるぐらいでできることじゃないはずなのに。現代の感覚で言えば、そんなノリでもありだと思いますが…… 1つの物語を完成させたというよりは、盛り上がるシーンだけをつなげたまるで『写真集』のような作品と言う印象です。
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