イン・ザ・プールの感想一覧
奥田 英朗による小説「イン・ザ・プール」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
やっぱり面白い伊良部シリーズ
すべての短編がリアルこの短編集「イン・ザ・プール」は全部で5つの短編が収められている。それらすべての物語に共通して出てくるのは精神科医伊良部である。子供のまま大きくなったような伊良部に患者たちはいつも振り回されている。その100%自分のことしか考えていない自己中心性は、恐らく子供は皆そうであるのかもしれないが大人となれば話は違う。そのような子供の心をもったまま大人になった伊良部は、意外にも精神に異常をきたした患者たちに良い効果を与える。もちろんそれは本人の意図するところではないのだけど、意図せずやった行動やセリフが患者たちの心を溶きほぐしている様が、読み手としても実感として感じることができるリアルさがこの小説の魅力だと思う。5つの短編には5つの症例を持つ患者が伊良部の元に訪れる。2話目以外は(その理由は私が女性というだけだ。実感はできないけれど、大変なんだろうということは痛々しいほどよ...この感想を読む
突っ込みどころ満載な精神科医(笑)
伊良部一郎は色白、デブ・マザコン・注射フェチ…など、突っ込みどころ満載の精神科医です。まともなカウンセリングもせず、無責任な行動でさんざん患者を振り回しますが、いつのまにか癒され、症状が回復してるというユーモアたっぷりなお話です。今回は5人の患者のお話が書かれています。どれも自分の身の回りにありそでなさそな?中でもケータイ中毒の患者が登場する「フレンズ」は自分にも思い当たる節があり、人ごとではないなと、ちょっとドキっとしてしまいました。現代人はストレス社会で心が疲れているので、こーいうのを読むと、ちょっとは心がラクになっていいんじゃないかな〜と思います。また、サブキャラのセクシー看護婦のマユミちゃんもいい味だしてます。続編も読まなきゃです!
伊良部総合病院地下室神経科へいらっ~しゃい!
人間には様々な悩みがあり、自分で解決できない場合、精神科医に相談する羽目になることもあります。そこで気になるのが、やさしい精神科医かしら?という問題です。患者の不安は、本質的な悩みから、医者に対する不安という2次的不安に見舞われて、パニックを起こしそうになるものです。日常生活からふと他人に目を向けると、こんな病気があったのかと改めて驚かされるストーリー。この第1作では、既にプール依存症、妄想癖、ケータイ依存症、強迫神経症など、誰でも明日にでもかかりそうな病気の話ばかり展開されています。読むのをためらう内容ですが、それを上回る個性的な二世精神科医の伊良部一郎ののっとりおっとりしたKYともいえる態度の治療が、患者の心をときほぐしていき、すぐによみ終えてしまいました。精神科医ってあまり好きではないけれど、少し興味が持てる1冊です。
迷医のようで実は名医
奥田英朗による精神科医 伊良部一郎シリーズの第1作目で第127回直木賞候補にもなった作品。ストーリーとしては、伊良部総合病院の御曹司である伊良部一郎の元に様々の悩みを抱えた患者が神経科を訪れるところから始まるのだが、何より主人公である伊良部一郎のキャラクターが非常に濃く、デブでマザコンでまったく空気が読めない5歳児のような存在であり、更に患者が注射を打たれるのが何より好きな注射フェチで、受診に来た患者は必ず太い注射の餌食になるといった感じで、一言でいえばただの変態医者である。ただそういった伊良部一郎に翻弄されながらも、必ずも患者が治ってしまう、まさに迷医ならぬ名医とも言える。作中では伊良部一郎のハチャメチャな行動がとても可笑しく、笑わずにはいられない作品です。全て短編ですし、とても読みやすいので、お勧めします。