向日葵の咲かない夏の感想一覧
道尾 秀介による小説「向日葵の咲かない夏」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
ベストセラー作家・道尾秀介飛躍の作品
一人称の語り手「僕」の語りで始まるこの物語。ミステリー愛好家であればすぐに「信頼できない語り手(Unreliable narrator)」を想起し、これから起こる出来事を全て信じるものかと警戒して臨むでしょう。洋の東西を問わず、一人称の語り手というのは意図的であれ記憶違いであれ必ず嘘を言うと決まっているのです。それをアメリカの文芸評論家ウェイン・ブースは「信頼できない語り手」と名付け、ミステリーの一つの手法として確立させました。日本ミステリー界でもこの手法を取り入れる作家は多く、湊かなえ『母性』や乙一『死にぞこないの青』、降田天『女王はかえらない』など枚挙に暇がありません。そして本作『向日葵の咲かない夏』でも、一貫して主人公「僕」が物語を紡いでゆきます。この作品の驚くべきところは、その「僕」が語ったもののほとんど全てが妄想であったということです。まさか、ここまで土台から根本から嘘だったとは、誰が想像したで...この感想を読む
咲かない夏
後味がとても悪い!との評判を聞いて手に取った本作。道尾秀介氏の小説は他にも手にとっていますが一番最初でかつ一番存在感のあった作品でした。やはり読んだ後の感想は私も同じような不気味だ…という感想を持ちましたが、このような感情を持たせてくれるこの作品に引き込まれている私のことを否定する事は出来ませんでした。ミステリーとしての主観の変化によったトリックも巧妙である上に主人公の感情でここまで雰囲気を作り出せるなんて…!!と思いました。不気味に思わせつつも最後まで読ませる文章力はすさまじいものを感じましたしどのようにとっても私が読んできた小説の中で、強く心に残るものの一つだと思います。
狂気
「向日葵の咲かない夏かー」「そういう時期もありでしょー」ってタイトルを見たとき思いました。読み初めて、すぐに「妹」が亡くなりました。そして、動物が殺された話が展開されました。「はじめっから、どぎついな」と思います。それからの内容もグロかったです。それでも、少年のような視点で夏の景色?情景?が懐かしさをどこか感じさせます。んで、緊張感もあり、読みやすかったです。ラストはかなり衝撃的で侠気でした。「自分を守ることしか考えない人間は他人を不幸にしてしまう」そう感じた作品でした。作品のどこかに良いメッセージが隠されていることもこの作品の魅力です。
異様な「夏」に引きずり込まれる
ここに描かれている「夏」は異様だ。ここに存在する「夏」はその世界だけのもので、決して爽やかではない。主人公が抱えていた心は、本をめくるこの手を掴んで離そうとしなかった。ぐっと何か重いものでその手を掴まれたような感覚を、読んでいた間ずっと抱いていた。これは、人に簡単に薦められるような作品ではない。主人公が抱える心の闇とそれを取り巻く「夏」という季節が重すぎて、そこからずっと抜け出せなくなるからだ。作者が読者を翻弄するこの書き方が半端ではないので、あまり本を読みなれていない人などは、きっと読み進めるのに苦労するかもしれない。この本を読み終えてしばらく経つが、まだ頭の中で主人公とその周りの世界を、鮮明に思い出すことができる。