百瀬、こっちを向いて。のあらすじ・作品解説
「百瀬、こっちを向いて。」は、2005年にアンソロジー『I LOVE YOU』に参加した中田永一がその中に収録した日本の恋愛小説である。2008年には単行本も出版されている。 この作品は、相原ノボルが、大学卒業を目前にしたある日、地元への帰省の際に高校時代の先輩神林徹子に再会し、高校時代の淡く切ない恋を思い出していくという物語である。慕っていた宮崎先輩に頼まれ、宮崎の本命の交際相手であった神林からの疑いをごまかすために、宮崎の浮気相手として交際していた百瀬陽という少女と偽の交際をすることになったノボルは、偽りの交際とわりきりながらも、百瀬への想いに息苦しさを感じてくる。そして、その苦しみから事情を打ち明けた親友のアドバイスにより、宮崎へ思いを打ち明け、前へと進んでいくというストーリーである。 2014年5月に、百瀬あかり役を早見あかりが、相原ノボル役を竹内太郎と向井理が演じ、同名のタイトルで映画化され、第9回アジア国際青少年映画祭最優秀監督賞を受賞するなど高い評価を得ている作品である。
百瀬、こっちを向いて。の評価
百瀬、こっちを向いて。の感想
4つの物語
『百瀬、こっちを向いて。』映画化したものの予告を見たことで、この物語を知った。タイトルが印象的だった。高校生の恋愛の物語だということは知っていた。思っていたより、短めだった。神林先輩にも、百瀬にも惹かれた。惹かれたというよりも、惑わされてしまう。とっても素敵な2人だった。百瀬は、思い浮かべるだけでドキドキしてしまう。「野良猫のような挑戦的な目つき。」百瀬は本当にかわいい。一方、神林先輩は、物語の最後の方での秘密が、私を圧倒した。神林先輩も、百瀬も、私の頭の中に印象を残していった。宮崎先輩が百瀬に買った本「舞姫」。好きな人に本を買うのか。すてきだなあ。主人公が田辺に百瀬との演技のことを話す場面、『尊いことだよ』『僕の体験したことが?』『大切にするべきことだ』。一番好きな場面である。田辺もなかなか、やるじゃないか(笑)。主人公にとっては初恋なのかな?。人を好きになるとき、それは、人それぞれ...この感想を読む
素敵な余韻が残る恋愛小説
短編が収録された恋愛小説。『百瀬、こっちを向いて。』『なみうちぎわ』『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』の四編。全体としては、素敵な恋愛小説という印象。どれも陳腐な恋愛話ではなく、なんとなく上品な雰囲気だ。30代でも素直に受け入れて読むことができる。主人公の描写がみずみずしい。やや卑屈な性格の人物でも、愛らしく書かれている。読後感の余韻を持たせるのが上手い。「あと一歩のところまで来た」「きっと良い結果になったのだろうな」という辺りで終了している。続きが読みたくなるような、でもこの塩梅で終わらせておくのがいいんだろうな、と。『なみうちぎわ』の終わり方が特に気に入った。
苦しいほどの恋の気持ちが伝わる小説。
地味で目立たない、自称「人間レベル2」のノボルは教室の中の薄暗い電球のような存在だと自分で認識していた。そして恋なんてするはずが、出来るはずがないと。でも、人間レベル100以上の幼馴染の先輩の頼みから美少女の偽恋人になってくれと頼まれることからどんどんと周りの状況や自分の気持ちが変わっていく。幼馴染みへの恩や憧れから、とんでもない事を引き受けてしまった、と思っていたノボルの気持ちの変化が、読んでいて苦しかった。読みたくないという苦しさではなくて、ノボルの苦しいほどの純粋な恋愛感情が文章から見て取れるから。偽恋人役なんかしなければ、こんな気持ちは知らなくてすんだのに。最後に、この2人がどうなるのか、気になって一気読みしました。