安吾の歴史観
坂口安吾の歴史小説「明るくて、決してメソメソせず、生活は生活で、立派に狂的だつた」と三島由紀夫に評された坂口安吾は、歴史小説もよく書いた。織田信長と松永久秀の奇妙な友情を描いた未完作「信長」や決して天下人には成れない器量人、黒田如水を扱った「黒田如水」「二流の人」、斉藤道三が成り上がる過程でどのように変貌していくか、内面から迫る「梟雄」などが有名どころである。そのどれもが徹底した合理性を持つ有能な主人公と野心や引け目といったその根底にある心情の緻密な描写の二本柱が特徴と言える。安吾と同世代やその後の著名な歴史小説家、例えば吉川英治や海音寺潮五郎、司馬遼太郎のスタイルは基本的に通史である。それに対し安吾のすごいところは徹底して自分の描きたいところしか描かない。そして不要な箇所は全く描こうとしない。清々しいまでの捨象と「合理性こそが時代に打ち勝つ力だ」という視点に徹した彼の小説はとにかく短...この感想を読む
3.03.0
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