軽い読み味を求める人には良作、それ以外の人には物足りない - 神様のカルテの感想

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神様のカルテ

3.833.83
文章力
3.67
ストーリー
3.75
キャラクター
3.42
設定
3.83
演出
3.42
感想数
6
読んだ人
17

軽い読み味を求める人には良作、それ以外の人には物足りない

1.01.0
文章力
2.0
ストーリー
2.0
キャラクター
1.0
設定
2.5
演出
1.0

目次

軽い読み味を求める人には良作、それ以外の人には物足りない

正直な感想を述べると本作はかなりライトな作品だ。勘違いが無いように言っておくが決して「面白くない」とか「ダメな作品」と言っている訳ではない。漱石マニア(?)の一止の語り口調は面白いし、医療モノ独特の人の生き死にを懸命に扱っており好感が持てる。形容するなら「これから大人になる若者に読んでほしい作品」といったところか。

では冒頭でなぜわざわざ「ライト」と言ったか。とにかく読み味が軽い。キャラクターが軽い。「生き死に」を懸命に扱っている、とは書いたがあれほど過重労働をしている職場なのに人間の醜さ、汚さはほとんど出てこない。3日徹夜ってのもまあいいか、と思えるほどだ。そういう意味で「人間」を懸命に扱っているとは言い難い。5日徹夜くらいの極限を書いて一止の脳裏に「まあ俺も大変だし、この人一人くらい死んだっていいか・・・」という発想が浮かぶ、くらいは書いてもいいように思う。一止だけでなくどのキャラにもそういう人間らしいブレが無さ過ぎる。キャラにブレが無いので役割分担も実に明確である。東西:優秀な補佐、砂山:和み、オチ担当、といった具合で戦隊ヒーロー特撮とか魔法美少女アニメを見ているような印象を受ける。 

ブレ、雑味って意外と大事

「医者」=聖職者、「看護師」=献身、「妻」=癒し、という図式が固定的過ぎて、一止の特異性が際立たない。もっと金の亡者みたいな医者、金持ちの医者と付き合いたい娼婦のような看護師、人を押しのけてでも生きたいと願う醜い患者、そういったものを書いてこそ、一止の悩みが浮き彫りになるのではないか、と思う。内容そのものもどっかで読んだようなものの集積で目新しさは1ミリも無い。

しかし書いているのは現役医者とのこと、これはつまり「医者あるある」なのか、あるいは「現実は厳しいけどこうありたいね」という願望ファンタジーなのか。

何にしてもそれは書き手の都合、読む側にとっては相手が医者だろうが浮浪者だろうが忍者だろうがなんら関係ない。作品としてどう見えるか、ただそれだけだ。

そういう流れでもう一度言う、本作は軽い。読んだ後何も残らないくらいなら良いが、残念ながら過度に献身的な人々(医療に、夫にそれぞれに献身的)の甘ったるさが残る。作品中にコーヒーや酒の批評がしばしば出てくるが、本作を例えるならよくできてはいるが後味が甘すぎる缶コーヒー、と私は評する。2作目以降では更に深い話もある、との紹介もある。当然書く内容も変化が必要なので医療事故とか金の話も出てくるのだろう。人から借りたりして時間があれば読むかもしれないが、金を出して買って読む、という行為を私がすることはあるまい。 

本屋大賞2位・・・本屋大賞ってなんだ?

本作は2010年本屋大賞で2位を取っている。本屋大賞はいろいろ批判もされている。開始当初は埋もれている名作に光を当てる、という方向性もあったようだがどうも読み味のいいライトな作品がノミネートされやすいようだ。海堂尊あたりが痛烈に批判しているが、この賞を語られるときに欠けている要素があるので記述したい。そもそも多くの文学賞を選ぶのは作家、出版社、文学評論家あたりだろう。その場合当然文章力、表現力、目新しさ、将来性なども選考基準になり、一般読者には基準がわかりにくくなる。それ故「より読者目線の賞を」、というのがウリのはずだが売っている人が選ぶんだから読者目線になるはずがない。商社の営業マンが何か一つ商品を勧めてほしい、と言われた時差し出すのは「一番良いもの」もあり得るがより多いのは「一番売りやすいもの」だろう。商売をしているのだから当たり前のことだ。しかも作家たちは名前を上げて選評も書くがこの本屋の従業員たちは名前も出ない。アルバイトでもなんでも書店に勤務してさえいれば投票可能だ。「本屋で働いているから本が好き」というのは傾向としては当てはまるかもしれないが、「うちの本屋としてもなんか参加しなきゃいけないから時間ある人どれか読んで投票してね」というアナウンスが店主からあれば、若いアルバイト学生はさしあたって既に売れている本を手に取るだろう。何と言っても彼らには何の責任もないのである。とりあえずなんか上げとけ、このあたりが妥当だろう、という票が増えるのは当然のことだ。つまるところシステムそのものがライトなものが選ばれやすいのだ。このこのように考えれば海堂尊あたりがこの賞に嚙みついているのもあほらしい事に思える。

「埋もれている本を発掘」というお題を大事にするのであれば過去数年の上位入賞作家は外す、とか現状の売り上げ部数が○部以下、とかメジャーな賞を受けていないとか、条件付けをすべきだろう。そのかわり過去1年の発表作品という枠を10年に広げるとかすればもっと「埋もれた作品に光を当てる」きっかけになるだろう。現実にこういう基準を設けた場合、そもそも票数が減って賞が成り立つのかもわからない。あまりメジャーではない作家、メジャーでない作品を探すことから始まるのだから、書店員の負担は増えるだろう。しかしそれでこそ、賞としての価値と権威は上がるのではないか?むしろ権威あるこの賞に投票する権利を得るために書店員になりました、くらいの人が生まれてくれば本屋業界も活性化するのではないか?

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