命令もされず、自らやったということが恐ろしいのだ
ウォルト・コワルスキー
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クリント・イーストウッドの渾身作『グラン・トリノ』ものすごーくオーソドックスに作られた、ものすごーくシンプルな映画というのがまず第一の感想です。基本に忠実に伏線を引いていて、場面ひとつひとつ、台詞ひとつひとつを無駄にしないからシンプルだけど味わい深い。カッコつけて「イーストウッドの渾身作」と前述しちゃいましたが、本音は映画を極めた者が迷いも躊躇いもなくただ職人の業を振るっただけといった印象が強いです。これは社会派映画ならではの宿命めいたものかもしれませんが、良く言えば「メッセージ性が強い」、悪く言えば「説教くさい」ですね。ちなみにこういう作品ってキネマ旬報なんかじゃ好かれるんです(笑)てなもんでイーストウッドの作品は観る前からハードルが上がっちゃうわけですよ。 しかしまあ撮り方が基本に忠実と言いますか。必要以上には説明しないので無駄がないと言いますか。 そりゃあ『硫黄島の手紙』のような画...この感想を読む
イーストウッドは大好きな俳優の1人だけれど、映画の制作ということに関してもこれほど優れた人はいないと思った作品。地味なテーマながら、登場人物の心のひだが丁寧に描写されていて、見るものをどんどん引き込んでいく。主人公の最後の決断にいたる理由も十分に理解できる。ダーティーハリーのイメージが強く、どんな巨悪でも悪いものは悪いのだとバッサリやっつけて苦味の利いた勧善懲悪を期待していたのだけれど、この物語の終わり方は「引退し、老境にはいったダーティーハリーのもうひとつの結着のつけ方」であるように思う。鑑賞後、ずーんと重く心に残る作品なので、気軽に映画を楽しむというものではないが、いろんな人にぜひ観て下さいとおススメできる作品だ。
ウォルト・コワルスキー
戦争で、やむを得ず残虐行為に走った人間でも安らぎと救いを得ることができると神父に諭された、その返し。