性を通して人間の精神と肉体の在り様を、乾いた文体で描き、人間の本質を見つめる作家・吉行淳之介の初期の名作「娼婦の部屋」
日本文学史上において、"第三の新人"と言われた、安岡章太郎、庄野潤三、遠藤周作らとともに、私の大好きな作家・吉行淳之介の初期の短編小説「娼婦の部屋」を久し振りに読んで、あらためて、吉行文学の素晴らしさを再認識しました。椎名麟三、野間宏、武田泰淳、堀田善衛、三島由紀夫らの、いわゆる"戦後派"の作家たちは、従来の古い文学に対して、著しく反抗的であり、人間性の回復を求めて、のたうちまわるような傾向があり、作品のきめは荒々しく、どぎつく、私小説的な日本文学の基盤に、西欧風の現代小説を、半ば強引に移植しようという、冒険的な野心に自己の文学的使命を賭けていたと思います。つまり彼らは、それまでの日本文学の主流であった"私小説"を否定し、日常的な"私"から抜け出して、社会的な構想の中に、自己の思想を表現しようとしていたのだと思います。これに対して、吉行を含む"第三の新人"群の作家たちは、"戦後派"の作家たちのよう...この感想を読む
5.05.0
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