兎の眼の感想一覧
灰谷 健次郎による小説「兎の眼」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
やり残してきた仕事がある大人の心を揺さぶる一冊
傷を負っていない人間も、強くやさしくなれるのか「兎の眼」という一風変わったタイトルだけは、ずっと以前から知っていたのですが、ストーリーについては一切知らなかったので、先入観を持たずに読むことができました。1974年に発表された社会派小説である本作の主な舞台は、小学校と、そこへ通学する幾人かの子どもたちが暮らす塵芥処理所です。今でこそ、多くの塵芥処理所は、窓の少ない大きな高層の建物の中でゴミの処理を受け持ってくれていますが、この物語が書かれた当時は、様々な事情を負いながら、仕事場のすぐ近くに住居が持てますよと役所から言われた人々が、夏も冬も灰を浴び続ける生活の中で、処理を受け持ってくれていた様子がよくわかります。作者の灰谷健次郎さんは、17年の小学校の教師の経歴を持ちます。これほどの小説を書く灰谷さんがどうして教師を辞めたのか。今の時代に作家について書籍で調べたり、インターネットで検索をするこ...この感想を読む
色々な問題がつめこまれた本です。
鉄三にはたからものがいっぱい詰まっている。乱暴者の鉄三のどこにたからものが・・・最初はそう思いました。でも見方を変えればただ乱暴なだけじゃない、ただ無口なだけじゃないすべてに理由があり、その理由をしればうまく付き合えるようになることも隠れた才能を発見し、そこを伸ばしてあげられることもわかりました。自分の子供の行動がわからないとき、どうして言う事を聞いてくれないのかと怒るのではなく、深呼吸して理由を探してみようと思いました。また、この本は子供たちの暮らす地区の環境の悪さも問題になりました。作業所を移転させ、危ない道を子供たちに通わせること、もしくはやっとまとまりかけてきたクラスを離れて違う学校へ転向すること、どれが本当はいいのか・・・また、自分だけ、自分の子供だけ良ければほかの子供がどうなろうといいのか。夫婦とは何か。いろいろと考えさせられる問題がたくさん詰まってる本でした。この感想を読む
兎の眼。
ちょっとグロめの始まり方で、読むのに抵抗があったけど読んでみるとなんとか読めました。でも虫が苦手なのでちょっと苦手な個所も・・・。22歳の新任教師、小谷先生が担任になった教室には鉄三という問題児がいた。だけれど鉄三はただ蠅のことが好きな少年で、「問題児」というのは大人による偏見だということに気づき、成長していく。新任教師でいきなりこんな変わった子のいる教室に配属されるとさぞ辛いだろうな、と思う。小谷先生も苦しんでいる描写があって共感できた。だけどそれでも、自分の偏見ではなく子供たちをちゃんと見ようという小谷先生の意志、成長していく姿は見ものです。「教員ヤクザ」でもちゃんと子供たちを見ている足立先生は立派だ。
読んでよかった学園もの
まだ卒業したばかりの初々しい新任教師が受け持ったのは、学校では全く心を開かず一言もしゃべろうとしない一年生の鉄三。全く心を開いてくれなくて落ち込む小谷先生だったが、鉄三の祖父や同僚のヤクザじゃんって突っ込みたくなるような足立先生、そして様々な生徒たちと触れ合うことで心身ともに成長していく様子を描いてあります。人の心を開こうとすることほど苦戦するものはありません。だってかたいカラにこもっているのでどう呼びかけても心にひびきにくいんです。色々と歩み寄っていくうちにいろいろと気づいて言っていやこの子は・・・ってなってくるんです。先生は気づくんですよ。あの子の豊かさに。今の世の中は学校と家庭の荒廃が叫ばれていて本当の教育についてひとりひとりの読者自身に問いかけてくるんです。あなたなら?って。長い年月が流れても現在まで語り継がれている名作です。こういう時代だからこそ一緒に考えていかなければいけな...この感想を読む