ろくでもない、文学青年やつれ
「文学青年やつれ」という言葉があるが、この本に出てくる男はまさにそれを地でいっている。 崇高な理想をかかげ、作家・藤澤清造に私淑するも、現実的にはほとんど無能力者といっていい存在である男。 一方的な思い込みから入れあげた女の聖性と俗性を勝手に配分し続け、さりとて女を手放したくない思いから嘘を重ね、行き当たりばったりにつぐ行き当たりばったりな行動で、いろんなものを失い続ける。 その暴力性、台詞のまわりくどさ、漢語の配し方に至るまで、昭和初期までの文学へのオマージュにまみれている。 それでも単なる古くさい話に終わらないのは、著者がきちんと持っている現代的な感覚のせいだと思う。 ひたすら女にいれあげる表題作のほうが、個人的には徹底していて好感が持てた。 「けがれなき酒のへど」は虚栄心、自己顕示欲の処理の仕方がちょっとうざい。しかしこれデビュー作なんですよね。 はじめからこんな人だった、という西村賢太入門本でしょうか。
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