「胸に輝く星」の最大の魅力は、やはりヘンリー・フォンダとアンソニ・パーキンスの二大スターの顔合わせ
西部劇でこのタイトルなら、すぐに、ああ主人公は保安官なんだなあと想像がついてしまいます。 なんとも、わかりやすいタイトルです。 もっとも、原題は「ブリキの星」というもので、さすがにこのままでは安っぽいですよね。
「胸に輝く星」なんていう粋なタイトルを付けた人のセンスは、実に素晴らしいと思いますね。 昔の映画には、こういう邦題が多くて、いい時代だったんだなあと思います。 最近の横文字そのまんまの邦題は、どうも好きになれません。 この「胸に輝く星」の最大の魅力は、やはりヘンリー・フォンダとアンソニ・パーキンスの二大スターの顔合わせにありますね。
ヘンリー・フォンダの絶品の西部男ぶりが私を魅了させたのは、ジョン・フォード監督の「荒野の決闘」ですが、この作品ではあのワイアット・アープにぐっと渋みを加えた枯れた演技を披露していて、実に素晴らしい。
アンソニー・マン監督も、このフォンダの味に焦点を合わせた演出を試みていて、例えば、冒頭間もなく、フォンダが往来を横切ってホテルのバーへ入って来るところなど、ゆるやかな落ち着き払った歩き方を克明に映しとっており、あるいはまた、ベッツイ・パルマー母子の家で、食卓についている場面では穏やかな物腰を、据え置きショットでじっくりと描写している。
一方、血気にはやる新米の若い保安官のアンソニー・パーキンスも、なかなかいいんですね。 脚本も彼の個性に相応しいナイーヴな性格に描いており、初めは意地っ張りのように見えるが、危ないところを助けられて、すっかりフォンダの腕前に感心するや、ただちに教えを乞うという素直さが、微笑ましく表現されていると思う。 師と弟子の関係を描いた映画が、とても好きなのですが、この西部劇も教える側と教えられる側の関係を実にうまく描いていて、嬉しくなりますね。
お尋ね者の死体と共に、ふらりと町にやって来た賞金稼ぎのモーグ(ヘンリー・フォンダ)という男は、以前は保安官でした。 前任の保安官が殺されてしまって、新しく町の保安官になったばかりのベン(アンソニー・パーキンス)には恋人がいて、危ない仕事だからやめてくれと、さんざん言われるのに頑としてやめようとはしないのです。 モーグは、まだひよっこ保安官のベンを見かねて助けてやります。 命を救われたベンは、いい保安官になるにはどうしたらいいのか、モーグに教えを乞うというわけなんですね。 保安官が登場する西部劇をかなり観てきましたが、いい保安官になる方法を描いているものは、初めてですね。
とっさに思い出したのは、マカロニ・ウエスタンの「怒りの荒野」のガンマン心得10箇条です。 でも、これはあくまでもガンマンの心得であって、保安官の心得ではありません。立場が全く違います。 拳銃を持っている無法者や、喧嘩っぱやい荒くれ者を相手にしなくてはいけない保安官という仕事は、ただ拳銃の使い方がうまくて、撃つのが速いだけではなれるものではありません。 人間をよく知っていなければ務まらないということを、モーグがベンに教授するシーンが、そういう意味からも、とてもいいんですね。
妻と子を失った男と、夫を失った子連れの女とが出会うというのは、なんともご都合主義極まりないのですが、さほど気にならないのは、やっぱりラストの緊迫した追跡のシーンと迫力のある銃撃戦でスカッとするからでしょうか。 94分という短い中に、人間ドラマがぎっしりと詰まっていて、大好きな西部劇がまた1本増えました。
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