恒川光太郎独特の世界観で勝負する幻想的な小説「雷の季節の終わりに」
恒川光太郎の「雷の季節の終わりに」は、評価の高かった「夜市」に続いて、著者独特の世界観で勝負する幻想的な小説だ。
現世とは少し違うような 隠れ里での暮らし や 、そこで起きる事件が中心で序盤は進んでいき、 宮崎駿アニメのような、異世界での不思議体験のテイストが存分に味わえ、アニメ映画化しても、かなり支持を得られそうだ。 ミステリでもホラーでもないので、やはり幻想小説というジャンルになると思う。
読み始めは、あまりつかみどころのないストーリーという印象だったが、そこで暮らしていた少年がいろいろ学んで、知識を増やしていくあたりから、俄然、面白くなってくる。
「 風わいわい」という化け物が、味方に付いているようで、敵との戦いも頻繁にある冒険物語としても、スリルがあって楽しめた。
登場人物がいずれもキャラが立っており、それぞれを主役にした話も面白そうなのだが、ページ数の都合なのか、ちょっとずつの描写にとどまるのが、非常に惜しまれる。
全5巻ぐらいにして、もっとこの世界観を掘り下げたとしても読みたいぐらいだ。途中から、私たちが住むような人間世界の描写が多くなってきたのは、少し興醒めで、ストーリー上、必要な展開であるというのは承知していても、やはり「穏」とその周辺の話がもっと読みたかったなというのが正直なところだ。
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