主人公・鼓田ミナレと占いの関係性 - 波よ聞いてくれの感想

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波よ聞いてくれ

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演出
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主人公・鼓田ミナレと占いの関係性

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
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キャラクター
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設定
4.0
演出
4.0

目次

泥酔トークが波に乗る……衝撃の幕開け

いつ何が起こるかわからない、先の展開が読めない、ラジオ番組のような漫画がある。題名は『波よ聞いてくれ』。作者は沙村広明。2018年現在『月刊アフタヌーン』で連載中だ。
主人公は、鼓田ミナレ。20代後半の女性だ。第1話では、札幌のスープカレー店でアルバイトとして勤務する一般人だったミナレが、とんでもない事件に巻きこまれていく姿が描かれている。

ある日、交際相手と別れた痛手を癒すため、バルで飲んだくれていたミナレ。そこで知り合った麻藤兼嗣というラジオ局のディレクターを相手に、くだを巻いていた。ところが、麻藤はミナレに無断で話の内容を録音しており、自分の担当する番組でオンエアしてしまったのだ。
愕然としたミナレはラジオ局へ急行、何の知識も経験もないままマイクの前に座り、オンエアされた自分の発言について話し始めるだった。

素人DJ・鼓田ミナレは、強気で行動的

このように『波よ聞いてくれ』は第1話から、主人公も話の展開も、かなりぶっ飛んでいる。
そもそも鼓田ミナレは話のはじめからバルで深酒をして、途中から記憶がなくなるほど呑んでいる。翌朝、バイト先の店長から遅刻を注意されても堂々としている。その上、ラジオ番組の中では、元・交際相手に対してドスの効いた強烈な一言を放った。
とにかく話の冒頭から、ミナレは常に行動している。彼氏にふられれば飲み、話をオンエアされれば止めに行く。ミナレに起きているのは本人にしてみればかなり酷い、恥ずかしい出来事のはずなのだが、彼女は他人からやられっぱなしのままではいない。言われたら言い返すし、やられたらやり返す。とても生命力の強い人物なのだ。

舞台となっているのは北海道の札幌市中央区。出てくるのは主にスープカレー店とラジオ局。背景となっているのは平凡な街の景色なのだが、そこをミナレの行動が鋭い刃のように切り裂いていく。主人公のきれの良い言動が、そのまま作品のリズムとなり、いいグルーヴ感を生んでいる。
ミナレが次にどんな出来事に見舞われるのか、それに対してミナレがどのように行動していくのか、目が離せなくなる。彼女の持つエネルギーが『波よ聞いてくれ』という作品そのもののパワーに結びついているのだ。

強気なミナレの意外な一面、占いに頼る

こうして思わぬかたちでラジオ番組への出演を果たしたミナレ。彼氏だった男への怨恨も吐き出してすっきり――と思いきや、新たな悲劇がミナレを襲う。
もともと、ミナレの勤務態度(遅刻や内情の暴露)を気に入っていなかったスープカレー店の店長が、ミナレを解雇すると宣言したのだ。

仕事を失うという窮地に立たされたミナレが頼ったのは――なんと、占いだった。

第3話では、朝起きたばかりのミナレが、鏡で自分の顔を見て、肌荒れに気がつくという描写がある。原因は、徹夜で占いサイトを見ていたため。追い詰められたミナレは、携帯電話で「動物占い・ネクストジェネレーション」の画面を保存する。占いに書いてあったのは「恋人は白い象(=クルマ)で来る」というアドバイスだった。
第4話では、とうとう解雇されてしまったミナレが、最後の給料を手に、同じ店の従業員・中原と呑んでいる。酔っぱらったミナレは思わず「男運がない時は仕事運が上がるはずなのに」と嘆く。何事かと聞き返す中原に「鏡リュウジ先生」と返し、中原は心の中で“FRaU?”とつぶやく。
鏡リュウジは京都生まれの心理占星術研究家。『FRaU(フラウ)』は講談社から刊行されている女性向けの総合ファッション雑誌。ちなみに『波よ聞いてくれ』が連載されている『月刊アフタヌーン』も出版元は講談社である。

基本的には強気で活動的な主人公・鼓田ミナレだが、ピンチの時には思わず占いにすがりついてしまう、という一面があることが、これらの描写からうかがえる。また、占い師や雑誌の名前がさっと口から出てくることから、日ごろから占いを見ているであろうという推測や、女性誌を見て自分の生活に必要な情報収集をまめにしているという推理も成り立つ。

ミナレが占いに頼った理由を推理する

ここで気になるのは、ミナレがどうして睡眠時間を削ってまで占いサイトに没頭したのかということだ。『波よ聞いてくれ』の全編を通じて、ミナレはとても強い印象を残す人物だ。第1話でも、自分の失恋話が世間にオンエアされてしまったというのにすぐに動けるし、自分の話の偏りを知ればすぐに謝罪をするなど、度胸も行動力もある。こういう人物が占いを頼るに至ったのは、いったいどういう事情があったのだろうか。

ここでミナレの失恋直後の状況を、整理してみよう。
問題は3つある。

まず1つ目は、交際相手の光雄と破局したこと。しかも、光雄は嘘をついてミナレから金銭を巻き上げた上、ミナレとは別の女性とも関係していた。
次に2つ目は、今までこつこつと貯めておいた貯蓄が大打撃を受けたこと。預金は総額で80万円。そこから光雄に渡したのは50万円ちょっと。家賃をはじめとする支払いは次々とやって来るのに、財産の半分以上を失ってしまった。
そして最後の一撃が、バイト先の店長からの解雇通知である。今までの自分の人生や生活を支えてきたものが、次々と失われていく。これ以上はない、というくらいの窮地に、ミナレは立たされてしまったのだ。

こういった状況を整理してみると、ミナレが占いに頼ったのは、自分1人では解決できないような大きな問題に直面したからだと言える。失恋や失職で今までの生活が一変してしまい、しかも、今後の生活にも支障が出てくる。人間は追い詰められると、思考が混乱、困惑して、心は不安や恐怖に襲われる。
例えば第3話では、ミナレは自分を迎えに来たラジオ局のミキサーを次の彼氏候補として見てしまう。それくらい彼女は追い詰められていたということだ。だから「誰かに助けてほしい」「自分を安心させてほしい」と願い、占いサイトを巡ったり、雑誌の占いページを読んだりしていたのだろう。

気持ちが不安定なままでは、新しいことを始めることはできないし、安心して生活を送ることもできなくなる。人生の根幹に関わるような大きな出来事に見舞われたミナレが、占いに頼ったのも、彼女の心理状態を考えれば自然なことだと言えるだろう。

ミナレから学ぶ、占いと人生の関係性

おそらく、生活や人生で何か悩みごとができた時に、鼓田ミナレのように占いを見る人はいるはずだ。生きていれば自分でどうしようもないことはたくさんあるし、すぐには解決できないような複雑な問題も起こる。自分が何かを決断する時の参考として、占いを利用するというのは大いにありだと思う。
占いは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と言われる。どんな占いとどのようにつき合うかは、個人の自由だ。占いの内容がどうであれ、それはあくまでも他人の思考や、他人の言葉でしかない。自分の生活や人生をかたち作っていくのは、他ならぬ自分自身でしかない。

生きていればさまざまな出来事に直面する。思わぬ裏切りや、悲しい別れもある。そうした時、問題を乗り越えるための勇気や気力を回復させるために、人間は占いを発明して、占いを続けてきたのではないだろうか。
他人の思考や言葉に頼りっきりになってしまい、自分でものを考えることがなくなってしまうと、それは自分の人生ではなくなってしまう。だが、自分でもどうしようもないくらいの規模の痛手を受けた時には他人の支えが必要な時もある。

ここでもう一度、ミナレが占いを見た理由を考えてみよう。前項で書いた通り、ミナレは不運な出来事に見舞われて、不安定になったから占いを見た、ということも言えるのだが、もう一つ、こんな理由も考えられるのではないだろうか。
当たるか当たらないかはわからない占いを頼りにしたのは、ミナレ自身に「自分の人生をどうにかしたい」という願いがあったからではないだろうか。もうどうにもならない、と絶望しきってしまっていれば、占いすら見る気にもならなかったはずだ。突き落とされた穴の底から這い上がりたい、という意思があったからこそ、希望を見い出すために占いを見た、という解釈もできると思うのだ。

自分をどうにかしたいから占いを見るというのは、どうにかしたいと思う自分自身を信じるということだ。私ならきっとどうにかできるという希望で、自分自身を勇気づけるということでもある。こうして気力を養うことができれば、占いの内容を現実にすることもできるのかもしれない。泥沼の中から立ち上がろうとする主人公・鼓田ミナレを見ていると、彼女の生きざまから、あきらめない心を教わっているような気がするのだ。

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限定されたシチュエーションを越える作家の想像力

作家性炸裂のパワフルでエネルギッシュなキャラクター!第一話を読んだ際、あまりの疾走感に脱帽した。日常的な話になりがちな恋愛やラジオ業界という題材を選びながらこれだけの作品に仕上がっているのは、まず第一にキャラクターの強さであろう。主人公の鼓田ミナレのみならず、個性的でアクが強く、エネルギッシュなキャラクターがぶつかり合う様は読者に強い爽快感を与えてくれる。しかし何と言っても最も魅力的なのは主人公の鼓田ミナレだろう。第一話からだまされた元恋人に「お前を地の果てまでも追い詰めて殺す」と言いきったり、会社には遅刻し、失恋すれば暴飲する。(失恋しなくても暴飲する)本当は言いたい、でも周りの空気が…と普通の人なら遠慮してしまうようなシチュエーションでも彼女は正直だ。傍若無人な彼女を見ていて「いいぞ!もっとやったれ!」と感情移入してしまうのは、おそらく私だけではないだろう。きっと誰も死なない…沙村...この感想を読む

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