限定されたシチュエーションを越える作家の想像力 - 波よ聞いてくれの感想

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漫画レビュー数 3,136件

波よ聞いてくれ

4.504.50
画力
4.25
ストーリー
4.25
キャラクター
4.75
設定
3.25
演出
4.00
感想数
2
読んだ人
5

限定されたシチュエーションを越える作家の想像力

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.5
設定
2.5
演出
4.0

目次

作家性炸裂のパワフルでエネルギッシュなキャラクター!

第一話を読んだ際、あまりの疾走感に脱帽した。日常的な話になりがちな恋愛やラジオ業界という題材を選びながらこれだけの作品に仕上がっているのは、まず第一にキャラクターの強さであろう。主人公の鼓田ミナレのみならず、個性的でアクが強く、エネルギッシュなキャラクターがぶつかり合う様は読者に強い爽快感を与えてくれる。しかし何と言っても最も魅力的なのは主人公の鼓田ミナレだろう。第一話からだまされた元恋人に「お前を地の果てまでも追い詰めて殺す」と言いきったり、会社には遅刻し、失恋すれば暴飲する。(失恋しなくても暴飲する)本当は言いたい、でも周りの空気が…と普通の人なら遠慮してしまうようなシチュエーションでも彼女は正直だ。傍若無人な彼女を見ていて「いいぞ!もっとやったれ!」と感情移入してしまうのは、おそらく私だけではないだろう。

きっと誰も死なない…沙村氏の新境地(?)

沙村 広明氏といえば、無限の住人に代表されるように被虐的でグロテスクな表現も沢山描いてきた作家である。しかし本作はキャッチコピーにも書かれているように「沙村氏の漫画なのに、誰も死なない」と宣伝されている。本作は従来の読者のみならず、新らしい読者にも門戸の開く作品になるだろう。キャラクターの生活観を下支えする設定もカレーや札幌、お酒やプロレス、亀…などなど、多岐にわたっていて楽しめる。特に女性でも楽しんでもらいやすいのではないだろうか。

ラジオという限定されたシチュエーションを越える作家の想像力

前述でも少し触れたが、私はラジオという音声に限定された設定を漫画で扱うのは非常に難かしい事だと思っている。得に斜陽といわれているラジオ業界、しかも北海道のFM局を扱う作品と聞くと、何となく田舎のささやかなカントリーライフと人間関係の暖かさ…というような今まで大量に消費されてきたストーリーラインが容易に想像できてしまう。既に読まれている皆様ならご存知だと分かっているが、それは全くの杞憂だった。代表的なエピソードを挙げよう。作品内で嘘の設定のラジオドラマを作成するシーンがある。恋人を殺してしまったミナレが死体を埋めに行く、というような内容なのだが、漫画で描かれる死体を埋めに行くシーンだけでもう言うまでも無くおもしろい。加えてアフレコをしているキャラクター達の人間関係が交わり、更には音声技術の豆知識まで知ることができる。全ては作家の力量と取材の下支えの賜物だ。素直に驚かされ、感服してしまった。

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主人公・鼓田ミナレと占いの関係性

泥酔トークが波に乗る……衝撃の幕開けいつ何が起こるかわからない、先の展開が読めない、ラジオ番組のような漫画がある。題名は『波よ聞いてくれ』。作者は沙村広明。2018年現在『月刊アフタヌーン』で連載中だ。主人公は、鼓田ミナレ。20代後半の女性だ。第1話では、札幌のスープカレー店でアルバイトとして勤務する一般人だったミナレが、とんでもない事件に巻きこまれていく姿が描かれている。ある日、交際相手と別れた痛手を癒すため、バルで飲んだくれていたミナレ。そこで知り合った麻藤兼嗣というラジオ局のディレクターを相手に、くだを巻いていた。ところが、麻藤はミナレに無断で話の内容を録音しており、自分の担当する番組でオンエアしてしまったのだ。愕然としたミナレはラジオ局へ急行、何の知識も経験もないままマイクの前に座り、オンエアされた自分の発言について話し始めるだった。素人DJ・鼓田ミナレは、強気で行動的このように『波よ...この感想を読む

4.54.5
  • 黒胡麻きなこ黒胡麻きなこ
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  • 3523文字
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