うしろ読みって楽しさを存分に味わえるプレミアム - 名作うしろ読み プレミアムの感想

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名作うしろ読み プレミアム

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ストーリー
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うしろ読みって楽しさを存分に味わえるプレミアム

4.54.5
文章力
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ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
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4.0
演出
5.0

目次

おとぎ話、本当に恐ろしいのはだあれ?

斎藤美奈子さんには1日が何時間あるのだろうか…と考えずにはいられないほどの圧倒的な読書量。それに加えて、書評も書く、評論も書く。もう、参りましたという言葉しか出てこない。あっぱれだ。私の大好きな「名作うしろ読み」にプレミアムが出たと知った時は「ひゃっほー」と小躍りして喜んだものだ。ただ、今回は苦手な外国文学が多かったかな。しかし、読むべきところはそういうことではないのだから全く構わない。

以前『本当は恐ろしいグリム童話』というタイトルだったか、桐生操さんが書いた本が流行ったけれど、このプレミアムの中の「おとぎ話の迷宮」の章もそれに似たところがある。日本のおとぎ話なんかは、結局、ラストは教訓じみているが、外国の原著は残酷極まりない。情け容赦がないのである。そこを斎藤さんが、シニカルに解説するものだから、恐ろしさが二倍にも三倍にも膨れ上がるのだ。

しかし、ペロー版の『サンドリヨン』(シンデレラ)に関しては、斎藤さんと私は意見が違う。グリム版では、意地悪なお姉さんたちは残虐な目に遭ったままで、その後触れられていないが、ペロー版では「お城に引き取って、立派な貴族と結婚させてあげた」そうだ。それをペローはシンデレラの品位と優しさのせいにし、斎藤さんはお城を牛耳るための伏線と読んだ。しかし、私はお姉さんと結婚させてあげた貴族っていうのもまたくせ者ではないかと想像する。だって宮廷の立派な貴族が、どうしてそんな嫌なオンナと結婚しなくちゃいけないの?きっと変な趣味があったり、醜い人相をしていたのかもしれない。立派というのは立場が立派なだけだと思う。これは復讐なのだと私は推測したわ。しかし、ペローはグリムに較べて優しいな。確かに子どもの読み物だけど、お姉さんたちに天罰も与えないと、逃げ得になってしまうよ。

立原正秋の『冬の旅』について

ここでも、斎藤さんと私の意見は違う。この立原正秋の『冬の旅』はとても大好きな小説の一つだ。大好きな作家の宮下奈都さんも『静かな雨』という小説のなかで、この『冬の旅』の主人公の行助という名前を使っている。行助はね、母親思いのいい子なんだから。義兄を二度も刺した罪で少年院に入ったけれども深い深ーい理由があってのことなんですよ。そんな行助が、復讐なんて考えるわけがないと、ここは確信を持って言える。これは「オープンエンディング」であって、この後、行助が生きるのか、亡くなってしまうのかは、読者の心の内側にある。私は…やっぱり亡くなってしまうんだと思う。結果的に行助の死が宇野の家への復讐になるかというと、そうでもないと思う。修一郎は悔やむだろうし、理一は悲しむだろう。母が愛している理一を悲しませることを行助が望むだろうか。私は、この本を何度も読んできて、行助の人生のなかに「あきらめ」みたいなもの、うーん「無力感」と言ったらいいのか、そういったものを感じる。それは、母の再婚にあらがえなかったことから始まっているのかもしれない。この物語のこの主人公に復讐という言葉は似合わない。この小説に対する愛情からそう思う。人格者すぎる主人公に別の顔なんてないのである。ただ、普通に青春を楽しみたかった悲劇の少年なのだ。

驚きの結末、あれこれ

この本を読んで初めて知ったのは『名犬ラッシー』が雌だったということ。この本は読んだことがないのだが、ラッシーのことはなぜか知っていた。テレビで放送していたのだろうか。私が、大発見をしたように夫に「名犬ラッシーって雌なんだよ」と教えてあげたら、「ラッシーって雌につける名前だろう」と軽く返されてしまった。そうなの?

また『吾輩は猫である』の猫は本当に死んだのか、という疑問。そう言われてみればどこにも死んだとは書いてはないのであった。これには驚いたよ。すっかり死んだと思っていたよ。なぜなんだ。

あとは『アルジャーノンに花束を』についての考察。外国文学は訳者によってラストが変わってくるかもしれないけれども、この訳はとても素敵だと思う。切なさに拍車がかかるわ。「っ」がないだけで、アルジャーノンを近く愛しく感じる。確かに人間は年をとると呆けていく。このSFとファンタジーがミックスされた奇想天外な物語の中にも、こんな考え方があったんだと思うと、私はもう目からウロコがポロンポロン落ちっぱなしなのだ。

おとぎ話も訳者や、伝えられ方によってはいろいろな解釈がある。それを較べてみるのもまた面白いかもしれない。個人的には教訓よりも、アンハッピーエンドの方が好みだ。性格の悪さかな。『人魚姫』ひとつにしても、声を失う。足を失う。命を失う。それと猶予期間を設けてくれるというものもあった。これは、どうかな、悲恋の物語だし命の恩人だから猶予期間もいいけれども、最初の約束があるからな。『眠れる森の美女』も目覚めたあと、王子様と幸せに暮らしました、チャンチャン…という訳ではなかったらしいことがまたドラマチック。人生そんなに都合良くはいかないものなんだね。

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