双子の姉弟の恋とキャンパスライフ - クローバーの感想

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クローバー

4.004.00
文章力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
4.00
設定
3.50
演出
3.50
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双子の姉弟の恋とキャンパスライフ

4.04.0
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
3.5

目次

人はやっぱり見た目が大切なのか

女の子って、自分の容姿に自信が持てると大胆になるんだね。この『クローバー』に出てくる雪村さん。高校時代に付き合った彼氏に、ひどい仕打ちをされたことをいつまでも覚えていて、それをずーっと気にしていたようだったのに、大学デビューするわけでもなく、ちょっとチャレンジしても代わり映えのしないのにあきらめていた。冬冶にノートを貸したのだってカレーうどんの借りを作りたくないからだって言ってたのにさ。私が、何を怒っているのかというと、雪村さんの増長っぷりなわけよ。華子のアシストで、急にイメチェンが成功すると、図々しくなっちゃうんだね。冬冶の身内を味方につけて安心したつもりなのか。私は、最初に登場してきた時の健気で、冴えない雪村さんの方が好きだったわ。なんだか奥ゆかしくて。過去に痛い目に遭ったことを、恥ずかし気に話していた雪村さん。「私なんか」って妙に謙遜しすぎる女の子もうっとうしいとは思うけれども、短い期間で、まあ偉くなったものですこと。

普段は誘われない飲み会に誘ってもらえたからって、終電の時間を忘れて強いお酒をガンガン飲みまくる節操のなさ。しかも、そんなに強くないといっておきながら。私は酒の席で人に迷惑をかける人が大嫌いだ。酒は楽しめ…と言いたい。声を大にして言いたい。そして、姉がいるからと言ってオトコの家に泊めてもらうなんて、厚かましいにもほどがある。それで、最終話ではすっかり彼女気どりで(もうその時点では彼女だけど)冬冶の将来を采配しようとするのである。やだわー。

私は、実はこの小説を読むのは二度目なのである。最初は、冬冶みたいなイケメン(のちに読み返すとそのようなことは、どこにも書いていなかった。冬冶目線で書かれているのだから当然である)そう、イケメンと思い込んでいたのは私だけだったけれども、その冬冶がひっそり咲いているカスミソウのような汚れのない雪村さんという女の子を見つけ出したのだという印象だった。二回目の今回はどうしても雪村さんが策士で、冬冶がそれにまんまとはまってしまったようにしか思えなくなっている。どうしたものだろうか。きっと私の中でも長い年月が流れたのだわ。二人の恋愛の成就を祝福できない私がいるわ。

ビジュアルに左右されない強さ

一方、華子と熊野氏が何となく上手くいっているのは、心から素敵だなーと思えるのである。美味しい食べ物をたくさん持ってきてくれる熊野氏。車を調達してくれる熊野氏。ビジュアルがクマだから熊野氏。とても、好感が持てるのである。例え、熊野氏が華子に出会ったことによって、前の彼女をこっぴどく振ったとしても、それはそれで誠実だなと思えてしまうのだ。

それは一体なぜなんだろうと考えたときに、私は一つの仮説に思い当たったのだ。冬冶は、イケてなくて変人と陰でウワサされていた雪村さんに最初は好意を抱いていなかった。雪村さんの方から恋心を伝えられても、それに応えることができなかった。しかし、見間違えるような彼女のメタモルフォーゼによって心を動かされたのではないか。不純じゃない?華子は熊野氏を、ストーカーだ、うっとうしい、あっちにいけ、帰れとひどい言葉を連発しながらも、そのビジュアルに対しては不満を言わない。受け入れている。そこがこの姉弟の違うところなんだよなーと思う。人間、見た目じゃないんだよ。でも、見た目がいい方がいいものね。わからなくはないけれども、冬冶、あからさますぎやしないか。

確かに、華子は眼科の受付で超イケメンに人目ぼれをして、半ば犯罪まがいの方法で彼に接近したけれども。そういう恋って長くは続かないでしょ。あの時のセーラー服の秘密を、私は知りたい。

島本理生の前期作品の長所

この小説には、おいしそうな食べ物がたくさん出てきてワクワクした。チェリーのタルト、ホットプレートで焼いたレアの肉。キャラメルの入ったマカロン、水菜にのせた温泉卵。ぐーっとお腹が鳴ってしまいそうな小説。これもまた楽しみのひとつ。

そして、大学生の恋愛はなんとなく可愛らしい。もう、戻れない郷愁のようなものを感じさせてくれる。こんなに素敵な小説を書いてきた島本理生さん。この後は、彼女の書く小説の主人公は、すぐに性行為に走ってしまう気がする。やむにやまれぬといった感がないので、残念だ。またそっち?と思ってしまう。『アンダスタンドメイビー』も『ナラタージュ』も『Red』も。そういうシーンがなくても、こんなに心を揺さぶる物語が書けるのになと少し残念に思う。

冬冶も華子も等身大の人物が動いているよう。実際にどこにでもいそうな登場人物で親近感がわく。もともと、クローバーを四人家族に例えた描写があったけれども、最終的には華子と冬冶と熊野氏と雪村さんの話になってしまったな。四つ葉のクローバーを探すのは難しいけれど、四人の心地良い関係はいつまでも続くような優しい余韻が感じられた。

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